国立がん研究センターは10月7日、病変部の不溶性フィブリン特有の未知の特異構造を発見し、その構造にのみくっつく抗体の作製に成功したと発表した。
同成果は、東病院臨床開発センター新薬開発分野 松村保広分野長の研究グループが、がん研究開発費、第3次対がん、最先端研究開発支援プログラムの支援を受けて行ったもので、詳細は英科学誌Nature姉妹誌のオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。
けがなどで出血をすると、血液中のタンパク「フィブリノゲン」が集まって塊を形成して止血(フィブリン塊)が行われるが、がんの増殖時も同様に、がんが周囲の血管を破壊して出血が起こると、血液中のフィブリノゲンが集まり、フィブリン塊を作ることが知られている。
通常、けがや梗塞、急性炎症などでフィブリン塊ができると、2週間程度で溶けて消失するが、がんの増殖・出血・フィブリン塊形成という悪性凝固サイクルは、がんがある限り無症状で永続的に起こることから、不溶性フィブリン塊が無症状でずっと存在するのはがんに特徴的であるといえることから、今回、研究グループはこの不要性フィブリン塊に着目し研究した結果、特有の3次元の特異構造を発見することに成功したという。
また詳細な調査の結果、同構造は、可溶性の状態ではタンパクの構造や分子内の相互作用によって閉鎖されているのに対し、不溶性の状態ではマウスからヒトまでその構造が保たれていることが判明したという。
さらに研究を進めたところ、同特異構造に付着する抗体、すなわち不溶性フィブリンのみを認識する抗体をつくりだすことに成功。同抗体を認識するプローブを用いて担がんマウスに造影検査を行った結果、悪性度の高い脳腫瘍の陽性率は100%であり、他のがんにおいても難治がんほど陽性率が高いことが判明したという。
同様の成果がヒトでもなされるのかについて研究グループでは治験で検証する必要があるが、すでにキメラ抗体の作製に成功しており、今後2~3年で治験に進めるものとしている。
なお研究グループでは、今回の抗体プローブの臨床応用が成功し、「今、治療の必要ながん」と「様子をみてよいがんや良性腫瘍」を判別することができるようになれば、がん画像診断の真の目的である死亡率の低下につながることになるとコメントしている。