慶応義塾大学(慶応大)は、離れた場所に存在する物体間の温度・熱流情報を同時かつ双方向に制御することで、温度の同期と熱エネルギー保存則の人工的な再現を可能とした高精度双方向伝送システムを開発したと発表した。
同成果は、同大理工学部の桂誠一郎 准教授らによるもの。成果の詳細は10月5日まで開催されている「CEATEC JAPAN 2013」にて紹介されている。
ネットワーク技術の進化により、音声や映像情報を遠隔地間でやりとりすることが可能となった。これらの情報は人間の感覚としては、聴覚や視覚情報であり、遠隔通信のさらなる臨場感向上を図るために、触覚や嗅覚、味覚などの他の5感に関連する情報通信の実用化が望まれている。
物体と接触する際に発生する熱現象では、ある物体が他の物体を温める際にその物体は同時に冷やされることになるため、遠隔地間で相互に熱接触を再現するためには、熱エネルギーを双方向にやり取りする必要があるほか、熱現象においては接触した物体間で熱流が流れ、熱エネルギーの流入出量に従い温度が変化しており、人間はこの温度変化および熱流を温熱感覚として感じている。温熱感覚の呈示においては温度および熱流の同時かつ双方向の制御が必要となるが、従来技術では、そのほとんどが遠隔地の熱状態を単一方向的に呈示する形式や、温度あるいは熱流の片方のみ着目する形式が採用されていたことから、熱的な影響を互いに与え合うような温熱感覚の呈示が困難となっていた。
同技術は、触覚のうち温もりや冷たさに該当する「温熱感覚」を扱ったもので、手元側システムと遠隔地側システムにおいて、ペルチェ素子と独自開発の温度・熱流同時・双方向制御アルゴリズムを組み合わせて動作させ、両システムの温度同期を図り、一方のシステムに流入した熱エネルギーを他方のシステムで流出させる制御を行うことで、遠隔地にある物体を直に触れているような感覚を得ることができるようになるという。
また、同システムは遠隔地側に置く物体の物理モデルを使用しない方式のため、どのような物体がシステムに触れても瞬時に温熱感覚を伝えることが可能なほか、手元側システムと遠隔地側システムは熱的に分離されているため、ネットワークを用いた通信によってより遠く離れた場所の温熱感覚を伝送するシステムへと拡張することも可能だという。
これにより、わずかに検出された熱流を電気信号として増幅して呈示することで、直接触れた際には感じることが困難な繊細な温熱感覚を拡大し、演出することも可能となり、例えば患部の発熱が重要となる触診などへの応用なども期待されるようになると研究グループでは説明している。
さらに、現在広く利用されている音声・映像情報に温熱感覚を付与したマルチモーダル感覚情報を構成することで、感覚情報提供における情報の多次元化を図ることも可能となり、例えばテレビショッピングにおいて商品の温もりを実際に触れて体験するなど、新たな情報発信の形態の実現につながることが期待されるとしている。