「もっと気楽にFPGAに触れてもらいたい」。そう語るのは、2013年7月1日付で日本アルテラの代表取締役社長に就任したハンス・チュアン氏。これまで2002年から10年以上にわたって同社を率いてきた日隈寛和氏の退任に伴い、新たに同社の舵取りを任された同氏に今後の日本市場に向けた取り組みや、社長としての意気込みを語ってもらった。
同氏の略歴だが、1998年に日本アルテラに入社後、FAEおよびセールス部門におけるディレクターを務めた後、2012年に中国戦略顧客担当シニア・ディレクターに就任。その後、今回の社長就任に伴い、日本アルテラに呼び戻された形となる。
社員にチャレンジャー精神を植えつける
「社長としてのミッションはチャレンジャー精神をどれだけ発揮できるか」だと同氏は語る。これは、国内における新市場の開拓や新製品の拡販に加え、エコシステムの構築をどうやって行っていくかにつながるという。特にエコシステムについては、「顧客から見てソリューションとして使える形で提供していく」という姿勢を見せており、そのためのパートナー構築を強力に進めるとのことで、ソフトウェアベンダや電子部品メーカーなどはもとより、場合によっては半導体ベンダとも組むとする。
また、同社はこの数年で一気にポートフォリオの拡大を進めている。既存のFPGA製品の進化系である14nm/20nmプロセスを採用した「Generation 10シリーズ」が次世代品として控えているほか、TSMCとの協業による55nm Embedded Flashプロセスを用いた新たな「MAXシリーズ」も2014年にはアナウンスされる予定となっている。また、「PowerSoC」ブランドでインダクタなどを内蔵したハイエンド電源ICなどを提供する「Enpirion」の買収による新分野製品の拡充なども進めており、そうした幅広い製品ラインアップを活用することで、「すべてのシステムにAltera製品を搭載することが目標」とする。
これまでのFPGAのみのビジネスでは、システムのメインプロセッサの代替もしくはその周辺ICの代替などがターゲットとなっていたが、電源ICも取りそろえたことで、何かしらのセット製品に何かしらの同社のデバイスが入り込む余地が生まれた。既存顧客向けビジネスは元より、日本の企業が強みを持つ産業機器(FA)やカーエレクトロニクスといった分野への積極的なアプローチや、民生機器などのコモデティ製品での採用に向けた取り組みなどに加え、2020年に東京五輪が開催することが決まったことから、今後は社会インフラや放送分野でのビジネスの発展が見込めるようになる。
日本市場に吹く3つの追い風
「日本におけるFPGAビジネスは3つの理由で追い風が吹いている」と同氏は見る。1つ目はシステム開発の複雑性が増しており、より柔軟な設計変更やアルゴリズム変更に短期間で対応する必要性が増していること。2つ目は先端プロセスを用いたASICの設計・製造コストが莫大になっていること。そして3つ目がFPGAがプロセスの微細化により性能が向上しつつも、量産効果によりコストが下がり、低価格で高性能なFPGAを入手しやすくなったことだ。
特に、先述した55nm Embedded Flashを用いた新MAXシリーズは、前世代の180nmプロセス品から一気に55nmへと引き上げたことにより集積度は10倍以上向上し、かつさまざまな機能も搭載されるなど、数ドルレベルのローコストASICの置き換えを狙った戦略製品となっている。
また、ソフトウェアエンジニアがFPGAを扱える環境が整ってきたことも大きい。1つ目はARMコアを搭載したSoC FPGAの提供で、これにより組み込みエンジニアなどがARMマイコンなどと同じ感覚でFPGAを活用することが可能となった。また、もう1つの取り組みが、OpenCLへの注力である。OpenCLは並列演算を実行するためのフレームワークだが、これを用いてFPGAの並列アーキテクチャを活用しようというもので、すでにSDKの提供などが進められている。
「ソフトウェアとハードウェアを同じシステム環境でデザインするという取り組みは斬新なものだと考えています。そうした意味では、顧客側もノウハウが少ないので、日本アルテラとしてもスペシャリストを用意し、コンサルティングなどと組み合わせて、その連携を加速する取り組みを進めています」(同)。こうした取り組みについても、「我々だけでは力不足」ということで、デザインサービスなどを行っているパートナー企業の力を借りる形でビジネスの拡大を図っていきたいとする。
また同氏は、「一番重要なのは顧客がグローバルの競争で勝利すること。そのために我々には何ができるのか。FPGAを活用するとどのようなメリットを得ることができるのか。これまでFPGAを使ってこなかった分野のメーカーなどにどうやったらそうしたメリットを感じてもらえるのかを常に考えている」と、FPGAをこれまで使ったことが無い分野や企業に対して、エコシステムの提供などで、より使いやすい環境を提供していくことを強調。そうした企業に向け、早ければ2013年10月にも電源ICとFPGAを組み合わせたリファレンスデザインの提供も開始するとのことで、よりシステムを意識したソリューションとしての製品提供を強化していくとしており、「グローバルビジネスで成功したいと思っている企業は、我々に声をかけていただきたい。きっとマッチしたソリューションが見つかるはず」と、かゆいところに手が届く存在として企業の事業拡大を手助けしていける存在になることを目指していければとしている。