東北大学は9月19日、北海道大学(北大)との共同研究により、サルを用いた実験で、多数の連続的な動作(順序動作)をグループに分けて効率よく符号化する神経細胞活動を発見したと発表した。

成果は、東北大大学院 医学系研究科 生体システム生理学の虫明元 教授、同・中島敏 助手、北大の津田一郎教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間9月26日付けで北米神経学会誌「Journal of Neuroscience」オンライン版に掲載された。

今回の研究では、サルに行動課題を訓練し脳の神経細胞活動を調べることで、前補足運動野およびその後方の補足運動野の領域で、多数の組み合わせが可能な両手順序動作が細胞レベルでどのように効率よく符号化されているかを解明した。さらに、得られた成果を説明する数理モデルの検討も実施された形だ。

実験はまず、サルにTVモニターに提示した4つの色と、左手か右手の回内(手首の内側への回転運動)・回外(手首の外側へ回転運動)の4つの動作との対応関係を学習させることからスタート。次に、4つの内いずれかの色を1つずつ指示信号として、動作開始信号(TVモニター中央の輝点)と同時に2回提示し(例:青→黄)、それぞれの色に対応した順序動作(例:左回内→右回内)を繰り返し行わせ、記憶させた形だ。その後は色という指示信号なしに、記憶した順序動作を動作開始信号だけ与えて行わせたのである。4つの動作を2回任意に組み合わせるので、合計16通りの順序動作をサルは行うというわけだ(画像1)。

研究チームは、この動作順序の記憶情報がどのように符号化されているかを解明するため、この時に補足運動野、前補足運動野の細胞活動を調べた(画像2)。すると多くの細胞は、個々の動作(例えば右手回内など)をそのまま符号化するのではなく、右手か左手か、あるいは、回内か回外か、という動作の属性によって個々の運動をグループ分けして、0か1かのような簡単な2進法的な符号化をしていることがわかったのである(画像3)。

画像1(左):実験の模式図と順序動作。視覚指示(色)で個々の動作を指示して順序動作を行う(3試行を繰り返す)。動作開始指示だけで、記憶した順序動作を行う記憶された順序情報はどのように符号化されているかが調べられた。画像2(中):サル大脳皮質の写真と外側面および内側面。補足運動野と前補足運動野は順序動作に関わる。画像3(右):順序動作のグループ符号化と複数の細胞で構成されたモジュール。順序動作は、属性でグループに分けて符号化され、組み換えで個々の動作を区別各モジュールは回内か回外か、右手か左手か、というような簡単な選択肢で区別される

さらに順序動作についても、例えば「右手→左手」など、使用する手でグループ化した細胞、「回内→回外」など、動作の種類でグループ化した細胞が多数発見された。一方で16通りの内ただ1つの順序動作、例えば「右手回内→左手回外」だけに選択的な細胞は非常に少ないことも確認されたのである。

脳において神経細胞が動作選択的に活動することが知られているが、一方でそのような選択的な細胞が集まっても、指数関数的に増える組み合わせに対して、対応には限界があることも指摘されていた。ヒトは、何気なく多数の対象から1つを選択し行動をしているが、通常7つ以上に選択肢が増えると、選択効率が急激に悪くなることが認知科学では知られている。

ところが順序動作に関しては、沢山の選択肢があっても、ヒトは混乱せずに1つの行動を選択することが可能だ。これをどう脳神経系が実現しているのかがこれまで疑問とされていた。そして運動系においては、順序の組み合わせが指数関数的に増加(すなわち組み合わせの爆発)するので、どのように神経細胞が多数の組み合わせを区別するのかも問題だったのである。

今回の結果から、脳は可能な動作群を属性によってグループ分けし、順序も属性に基づいてグループ表現することで問題を軽減できることが示唆された。計算論的に検討すると、個々の細胞が多数の順序から1つを選択する符号化よりも、属性に基づいて細胞をグループ分けして順序を符号化する方が、圧倒的に効率がよく誤りも減らせることが示された(画像4・5)。

また、計算モデルによって、1つ1つの細胞が関与する選択肢の数を減らすことで、細胞活動の誤動作や特定の符号化をしている細胞自体を検索する時間を減らせることも推定できたという。脳は1つ1つの細胞の負担を減らす代わりに、異なる属性に基づいてグループ符号化をする細胞が幾つか一緒に活動することで、効率的な符号化を図っていることが判明したというわけだ。

画像4(左):グループ符号化による順序動作選択の効率化。グループ符号化で表現できる数は 個別の順序動作の組み合わせ数よりはるかに少なく効率的である。もし個別に符号化をすると組み合わせは膨大になる。画像5(右):グループ符号化の考え方と個別符号化との比較

今回の研究から、多数の行動選択肢に直面した時、個別にされた運動をそのまま符号化するのでなくグループとして選択することは、脳が自発的に独自の選択肢を創り出していることを示唆するという。高次運動野に属する内側前頭葉のこのような機能の解明は、随意運動の階層性を理解する上で重要な貢献といえるとしている。