東北大学は9月27日、銅系形状記憶合金を数cmの断面サイズを有する部材として利用することを可能とする、新たな熱処理プロセスによる結晶粒の異常成長現象を見出したと発表した。

同成果は、同大大学院工学研究科 金属フロンティア工学専攻の大森俊洋 助教、貝沼亮介 教授らによるもの。詳細は、9月27日付の米国科学振興協会発行の学術雑誌 「Science」に掲載される。

金属材料は原子が周期的に配列した結晶であり、方位の異なる多数の結晶粒からなる集合体(多結晶体)であることが知られている。また、結晶粒の境界面(結晶粒界)ではエネルギーが高く不安定なため、原子の移動が可能な高温環境下では、材料内部における結晶粒界の割合を減らすために、ゆっくりとした粒界の移動による結晶粒の粗大化が起こることが知られている。しかし通常の結晶粒成長は、粒径がサブミリ程度に達すると著しく遅延するといった課題があった。

研究グループは近年、従来使用されている合金系(TiNi)に比べ格段に製造しやすい新型銅系形状記憶合金を開発し、その超弾性特性を利用した巻き爪矯正器具を商品化しているが、同銅合金の超弾性特性は、材料のサイズに対する結晶粒の大きさが大きいほど優れた性質を示すため、数cmの大型部材への適用を考える場合には、結晶粒もそのレベルまで大きくする必要があるものの、従来の高温保持による通常の結晶粒成長法では限界があり、短時間で簡単に結晶粒を粗大化させる手法の開発が求められていたという。

今回、研究グループでは、銅系形状記憶合金の結晶粒成長に関する研究を行い、約900℃以下の温度域において冷却と加熱のサイクル熱処理を行うことで結晶粒成長速度が著しく速くなる異常粒成長現象が生じることを発見。同手法を用いることで、通常の結晶粒径より1~2桁程大きい数cmレベルの結晶粒径を得ることにも成功したという。

写真は、直径2cmの棒を結晶粒が貫通したもので、このサイズの材料においても良好な超弾性が得られることを見て取れる

今回の成果は、従来、約1mm以下の断面サイズに限られていた銅系形状記憶合金の用途を、最大で数cmの断面サイズに拡大することを可能とするものであり、研究グループでは今後、量産化プロセスを確立させることで、従来、適用が困難であった建造物の制震構造用部材をはじめとする、センチメートルレベルの大型部材への適用が期待できるようになると説明している。

また、従来より、液体状態の金属を特別な条件で凝固させたり、加工熱処理を与えたりすることで材料を単結晶にする技術があるが、製造コストや扱える試料形状などの制約により特殊な用途での利用にとどまっていることを考えると、今回の手法では、通常プロセスにより成型した部材に対しても熱処理を施すだけで巨大結晶粒を得ることができるため、大量生産にも適した実用的なプロセスであると言え、形状記憶合金以外の他の合金への適用などによる、幅広い利用も期待されるとしている。