東京大学(東大)は、これまで考えられてこなかった光エネルギーを使ってナトリウムイオンを菌体外に排出する新しいタイプのタンパク質「ナトリウムポンプ型ロドプシン」を海洋細菌の一種「Krokinobacter eikastus」から発見したと発表した。
同成果は、同大大気海洋研究所・地球表層圏変動研究センターの吉澤晋 特任研究員、木暮一啓 教授、名古屋工業大学の井上圭一 助教、神取秀樹 教授らによるもの。詳細は、「Nature Communications」に掲載された。
太陽光エネルギーを使って水素イオンを排出、あるいは塩素イオンを細胞内へ取り込むポンプは古くから知られていたが、これまで生体にとって重要な電解質の1つであるナトリウムイオンのポンプは見つかっていなかったため、細菌が太陽光エネルギーをナトリウムイオンの輸送のために使うということは従来考えられてこなかったという。
今回の研究のポイントとなった「ロドプシン」は、ヒトの目の視紅として知られる光受容性のタンパク質で、藻類や細菌の間にも分布し、水素イオンや塩素イオンのポンプなどとしても機能していることが知られている。
今回の対象となった海洋細菌では、KR1とKR2という2種類のロドプシンを有していることが判明。KR1は水素イオンを排出するポンプで、一方のKR2はナトリウムイオンを排出するとともに、イオン環境や増殖期に応じてリチウムや水素イオンも排出するポンプであることが判明したとのことで、研究ではKR2の立体構造を解析し、KR2におけるナトリウムイオンの結合部位や反応過程の詳細などの解析が行われたという。
今回の成果は、光エネルギーを使ってナトリウムイオンを排出する生物機能に関する初めてのものであり、研究グループでは、今後のロドプシン研究に新しい展開をもたらす可能性が高いと指摘。また、地球上の生物における光利用の進化の過程、光エネルギーの利用がもたらす優位性、海洋生態系への新たな光エネルギー流入の過程など、多くの新しい研究領域の開拓などにつながることが期待されるともコメントしている。