日本中から1500名以上のMATLAB/Simulinkユーザーが集うユーザーカンファレンス「MATLAB EXPO」。今年も10月29日に、東京・台場の「ホテル グランパシフィック LE DAIBA」にて開催される。MathWorks Japanが主催するようになり5回目という節目の「MATLAB EXPO 2013」のテーマは「複雑性に取り組む」であり、ナノテクからビッグデータまで、活用の幅が広がるMATLAB/Simulinkをどのように活用されているかを、原点に立ち戻って、来場者に理解してもらえるようなイベントとして再構築が図られたという。そんな今回のMATLAB EXPO 2013の見どころを、イベントテーマの選定などを先頭になって指揮してきたキーマンとも言える人物、同社インダストリーマーケティング部マネージャーの阿部悟氏に話を聞いた。

MathWorks Japanのキーマンが語るMATLAB EXPO 2013の見どころ

エレクトロニクスやメカトロニクスの発達は、さまざまな機器の高機能化、高性能化を実現してきたが、その一方で、システムの規模の肥大とそれに伴うさまざまな機能の搭載による設計の複雑さが開発現場の課題として立ちはだかるようになってきた。8月27日に打ち上げ19秒前になって打ち上げを中止したさまざまな新機能を盛り込んだ日本の新型固体ロケット「イプシロンロケット」は、その機体や機体に搭載された各種システムなどに不備がなかったにも関わらず、ロケット側の姿勢の演算にかかる遅延を考慮するという設計者側の意識が抜けていたことで、地上管制側が異常状態と判断し、打ち上げが中止となったことは記憶に新しいが、これも複雑性が引き起こした事例の1つと言えよう。

MathWorks Japanのインダストリーマーケティング部マネージャーである阿部悟氏

しかし、そうした現時点で複雑と考えられるシステムもノウハウが溜まる5年先、10年先にはスタンダードとなり、さらに複雑なシステムが登場することとなる。そうした現状を鑑みた時、「今でこそSimulinkで制御設計というイメージが強いが、それもMATLABがあってこそ。だからこそ、MATLABを活用してデータの解析などを行っていくという、基本的な姿に立ち戻ることで、将来の複雑性にどう対応していくかの姿を見せたかった」と阿部氏は語る。

そうした想いが込められた基調講演では、同社Design Automation Marketing DirectorのPaul Barnard氏より「Embracing Complexity - 複雑性への取り組み」、そしてゲストスピーカーとしてNTTのコミュニケーション科学基礎研究所 所長 前田英作氏が登壇し、「基礎研究の現場から眺めた情報技術の見えないイノベーション」というタイトルで、データ処理によって何がもたらされるのか、といったことが語られる予定だ。

複雑化するシステムと、どこにでも存在するデータ

このデータ処理というものは、何も設計や制御、シミュレーションといった一般的にMATLAB/Simulinkが用いられるイメージの場所だけに必要なものではない。最近、ビッグデータという言葉が話題になり、そうした膨大なデータを分析・解析するデータサイエンティストの重要性が日本でも叫ばれるようになってきたが、未だにその数は諸外国に比べて圧倒的に少なく、ひいては数学や統計に疎い国というイメージを持たれかねないといわざるを得ない。しかし、そうした中にあっても、先行する諸外国に対抗していく必要があるわけで、そのために必要になってくるのが、そういったツールを活用することで、複雑性をよりシンプルにし、複雑にさせない工夫である。

複雑性がシンプルになれば、それはもはや"複雑"という表現は似つかわしくないものとなる。MATLAB EXPO 2013では、各セッションも、従来とは異なり、「入門編」、「テクニカルコンピューティング」、「情報処理・画像処理」、「通信・信号処理実装」、「モーター・モーション制御モデルベースデザイン実装」、「制御設計・検証」、「制御設計・モデルベースデザイン環境」とアプリケーション別に分け、内容も具体的なアプリケーションを前提とした、設計から実装をどのように実現するか、といった形まで解説するものなども用意されているという。

「なんでもできるMATLAB/Simulinkだからこそ、知識がなければ何もできないという課題があった。今回のセッションでは、実際のアプリを提示することで使い方をインスパイアしたい」とのことで、対象分野に精通している人向けだけではなく、そうした技術に興味はあっても、よく知らないから、自分にはハードルが高いのではないか、と思っている人でもわかるような内容の提供を試みているということで、阿部氏も「今までと違うことを試してみたいという人にぜひ各セッションを覗いてもらいたい」とする。

あらゆる場所に氾濫するデータをどうやって使えるものに変えるのか

特に、ありとあらゆる分野でデータが生成され、その処理が必要になっているという世の中の流れの中で、ものづくり分野以外であっても、例えば金融や農業、流通など、一見するとデータの世界とは無縁の世界の人たちであっても、そこには大量のExcelデータなどを持っており、それを処理することが求められている人たちが存在するようになってきた。また、ものづくり分野であっても、実験や試験などを行って、そうやって得られたデータの解析などを行う必要がある人や、計測器などにもともと付属のソフトだけを使っている人なども、データを扱う人たちであり、阿部氏も「あらゆる大量に得られるデータを扱う人は、一度足を運んでみてもらえば、必ず自分のデータ処理に対する何らかの答えやアイデアを持って帰ってもらえる」と述べており、それを機にMATLABを関数電卓のように身近なツールとして使えるのではないか、という考えを頭の隅にでも抱いてもらえればと、想いを語る。

また、同会場には、先般発表されたばかりのMATLAB/Simulinkの最新バージョン「R2013b」に関するデモや実演も13個ほど展示されるとのことで、そこで来場者は自分にマッチした機能などをスタッフに聞くことも可能だ。

なお阿部氏は来場者へのメッセージとして、以下のような思いを語ってくれているので、この部分については、そのままお伝えしたいと思う。

「MATLAB/Simulinkは問題の複雑性を解決するツールではなく、問題をシンプルにしてくれるツールです。活用してもらうことで、次に求められるさらなる複雑なものに取り組んでもらえればと思って開発を進めているので、一度、来場していただき、そうした自分たちが抱える問題のシンプル化をどうやったら実現できるかのきっかけを掴んでもらえればと思っています」。

MATLAB EXPO 2013は無料で参加が可能であり、参加登録はすでに開始している。各セッションごとに定員があり、人気のあるセッションはすぐに埋まってしまう可能性が高いので、興味を持って参加してみようと思った方は、タイムテーブルを見て、自分に合いそうなセッションを登録してみると良いだろう。

アプリケーション別に分けられたMATLAB EXPO 2013の各セッションのタイムテーブル