トムソン・ロイターは9月25日、2013年10月7日から予定されているノーベル賞受賞者の発表者に先駆け、同社の学術文献引用データベース「Web of Science」を元に、論文がどの程度引用され、学術界にインパクトを与えたのかなどを考慮した「ノーベル賞有力候補者(トムソン・ロイター引用栄誉章)」を発表した。
同賞は同社が1970年代から不定期に行ってきた文献の引用数の定量計測を元に、2002年以降、毎年定期的に発表してきたもので、今回で12回目の発表となる。
今回、新たに有力候補として加えられた研究者は「医学・生理学」で3トピック7名 、「物理学」で3トピック6名、「化学」で3トピック7名、「経済学」で3トピック8名の合計28名。その内、日本からは医学・生理学分野で東京工業大学 フロンティア研究機構の大隈良典 特任教授と東京大学大学院 医学系研究科 分子細胞生物学分野の水島昇 教授が選出されたほか、物理学分野で、東京工業大学 フロンティア研究機構&応用セラミックス研究所 教授で同大 元素戦略研究センター長でもある細野秀雄氏が選出された。
同候補の選定基準は、過去20年以上にわたる学術論文の被引用件数に基づいて、各分野の上位0.1%にランクインする研究者となっており、主なノーベル賞分野における総被引用数とハイインパクト論文(各分野において最も引用されたトップ200論文)の数を調査し、ノーベル委員会が注目すると考えられるカテゴリ(物理学、化学、医学・生理学、経済学)に振り分け、各分野で注目すべき研究領域の候補者を決定するというもの。
候補者は毎年選出されるが、選出された研究者は候補者の1人として翌年以降も繰り越してリストアップされていく方式であり、2002年から2013年までの間に、今回選出された3名を含めると日本人だけでも19名が候補者に名を連ねることとなる(内2名は故人)。また、この候補者の中には2012年のノーベル生理学・医学賞 受賞者である山中伸弥 教授もリストアップ(2010年より)されている。
今回の28名を加えた全世界の候補者は183名で、この内27名(2012年は1名-山中教授-が選出)が実際にノーベル賞を受賞しているが、同社ではこの183:27という比率に意味があるのではないと説明する。それは、実際に化学分野の研究者だけでもデータベースには約70万人登録されており、候補者にリストアップされる可能性があるのはその内のトップ0.1%だが、それでも700名も居り、そこからノーベル賞の受賞トレンドや受賞者の地域性などを加味して搾っており、そうした周辺要因まで含め、ノーベル賞の選考委員とどの程度、思惑が近づけているのか、という点が問題になってくるためであるという。
今回の28名が所属する研究機関の地域は、米国が18名、英国5名、日本3名、イスラエル2名、スイス2名、ベルギー1名(一部重複有り)となっており、昨年の米国13名、英国3名、日本3名、カナダ2名という北米、英国、日本という形からは広がりが見えている。米国、英国、日本はほぼ毎年といって良いほど、候補者に名前を連ねているが、こうした背景について同社では、今ホットであるというトピックス性も見ているが、過去20-30年、もしくはそれ以上の期間にわたって、大きなブレークスルーを生み出したという点に注目して選定しており、その時代にサイエンスが発展しているというものに注目すると、非常に限られた国で研究が行われていたため、英国や米国が強いこととなると説明するほか、日本については、30年ほど前まで、サイエンスのコミュニティにおいてかなり異端とみられてているほど、アジアの中にありながら研究を推進してきたという背景があり、必然的に候補者が出てくる可能性が高いとしている。
日本人として選出された大隈氏と水島氏の対象論文は、「オートファジーの分子メカニズムおよび生理学機能の解明(For elucidating the molecular mechanisms and physiological function of autophagy)」。細野氏の論文は「鉄系超電導体の発見(For his discovery of iron-based superconductors)」となっている。大隅氏の対象となった論文が発表されたのが1993年。その後、世界各国でさまざまな分野に引用されているという。また、水島氏の場合、大隅氏の研究を哺乳類に拡大していくことで、より広い分野に応用展開を果たすことに寄与したという。特に臨床医学分野では、より応用的な裾野の広い研究を成し遂げるために重要な要素となったとしている。一方の細野氏の論文は、発表されて以降、化学と物理分野の双方で、引用が進んでいることが評価されたという。
また、今回、海外の研究者であるが、ヒッグス粒子に関する予測についての論文に関連する2名の研究者が物理学分野で候補者に名をつらねた。元々の論文発表は1964年だが、近年の研究にインパクトを与え、研究の盛り上がりに強く示唆していることが背景にあるという。
50年ほど前に発表された論文が、近年になって活用されるようになってきたヒッグス粒子関連の話題。トムソン・ロイターでは、そうした時代にきっちりと基礎科学を培ってきたことが、現在の成果に結びついているとしている |
なお、今回の候補者がいきなり2013年のノーベル賞を受賞するという可能性は低いが、少なくともノーベル賞受賞クラスの成果を挙げた研究者たちであり、数年先には実際にノーベル賞を受賞する可能性があるというスタンスを示している。