東レは9月20日、単層素子のポリマー有機薄膜太陽電池において、10%超の変換効率を達成したと発表した。

10%超の変換効率を達成したポリマー有機薄膜太陽電池

太陽電池の変換効率は、短絡電流(Jsc:Short-Circuit Current density)と開放電圧(Voc:Open-Circuit Voltage)に依存するが、有機薄膜太陽電池の変換効率の向上には、とりわけJscの向上が課題となっている。一般的に、ドナー材料にはポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)に代表される芳香族ポリマーが、アクセプター材料にはフラーレン化合物がそれぞれ広く研究されているが、Jscの向上には特に、光吸収を担うドナー材料の高性能化が必須とされている。

太陽光を効率良く吸収するためには、ドナー材料には長い吸収波長と高い吸光係数が求められる。また、光を吸収したのちに放出する電子の対となる正電荷(正孔)を、電子とは逆の方向に素速く流すために、高い電荷移動度を有していることが望ましいとされている。そこで、従来のドナー材料で、変換効率~5.5%の性能を有する「N-P710」の発電メカニズムを詳細に解析することで、光吸収量と電荷移動度が不充分であったことを明らかにした。これを受けて、光吸収と電荷移動の方向が、ドナー材料の主鎖平面と直角の関係にあることに着目して改良検討を進め、太陽電池基板と平行(入射光や電荷移動の方向と直角)にポリマー主鎖平面が配向しやすい化学構造を、ドナー材料の主鎖・側鎖構造に導入することにより、吸収端波長が約780nm、吸光係数が約20万cm-1、電荷移動度が約1×10-2cm2/Vsと、高い光吸収特性と導電性を両立する芳香族ポリマー系ドナー材料を新たに開発することに成功した。

有機薄膜太陽電池の典型的構造

新規ドナー材料の光吸収特性(薄膜)

また、有機薄膜太陽電池の発電層は、ドナー材料とアクセプター材料がブレンドされたバルクヘテロ構造と呼ばれる特異的な構成となっており、高いJscを発現させるためには、ドナー材料とアクセプター材料がナノレベル相分離していることが望ましいとされている。そこで、発電層の製膜溶媒など製膜条件を最適化することで、ナノレベル相分離している理想的なバルクヘテロ構造の形成を実現した。さらに、ドナー材料の高度な配向性を組み合わせることで、高いJscを得るために必要な配向制御された厚膜化(従来比約3倍となる約300nm)を実現した。これにより、同材料を用いて作製した有機薄膜太陽電池において、全吸収波長領域で、ほぼ9割を超える極限の外部量子効率を実現し、10%を超える変換効率を達成した。

同有機薄膜太陽電池の内部微細構造を大型放射光施設「SPring-8」で測定・解析した結果、ドナー材料の主鎖平面は、アクセプター材料との混合状態であるバルクヘテロ構造においても、分子設計通り太陽電池基板と平行に配向していることが確認できた。また、発電層が従来に比べて厚いため、上記のような高効率化に加えて、リーク破壊が起きにくいこと、ならびに発電層が1層のみで複数の発電層を積層させる他方式よりも構造がシンプルなことから、従来方式に比べて高耐久性と低コスト製造が期待できるとコメントしている。

開発した有機薄膜太陽電池の性能。a)外部量子効率、b)電圧-電流特性