順天堂大学は9月19日、理化学研究所、杏林大学、慶應義塾大学との共同研究により、マウスおよびヒトを用いた研究結果から、インスリンと共に「膵β細胞」から分泌される亜鉛が肝臓でのインスリン分解を抑制することで、肝臓を通り抜けて全身に向かうインスリン量を十分に確保する新しい仕組みがあることを発見したと発表した。
成果は、順天堂大大学院 医学研究科・代謝内分泌内科学の藤谷与士夫准教授、同・綿田裕孝教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米科学誌「Journal of Clinical Investigation」9月24日号に掲載される予定だ。
糖尿病患者では尿中の亜鉛排泄量が増えるなど、体内の亜鉛が失われる傾向にあることから、亜鉛不足が糖尿病発症リスクを高め、亜鉛の摂取が糖尿病に効くといった説が広がっているが、その科学的根拠は実は明らかではない。近年、膵β細胞のインスリン分泌顆粒内に亜鉛を汲み入れる「亜鉛トランスポーター(ZnT8)」のヒトの遺伝子の「一塩基多型」により、その機能が低下すると糖尿病の発症リスクが高まることがゲノム相関解析より報告された。
しかし、これまでいくつもの研究チームがZnT8の機能低下がなぜ糖尿病に結びつくのかを調べてきたが、どのチームもその理由をうまく説明することができていない。そこで、藤谷准教授と綿田教授の研究チームは今回、生体内の亜鉛の流れに着目し、今回の実験を実施した。
研究チームは、インスリンと共に蓄えられている亜鉛にどのような役割があるのか、ZnT8の機能が悪くなると、なぜ糖尿病のリスクが高まるのかについて調べた。まず、膵β細胞でZnT8を欠損するマウスが作製された。すると、このマウスではインスリン分泌顆粒内の亜鉛が枯渇するために、正常なインスリン結晶構造が作られず、また糖を与えると軽い耐糖能異常を示し、その時の末梢血中のインスリン濃度は正常マウスに比べて低い値を示すことが確認されたのである。
そこで、膵β細胞からのインスリン分泌を直接調べたところ、予想に反して、正常マウスよりも約2倍のインスリン分泌の上昇が認められた。さらにZnT8を欠損させたマウスの詳細な調査が行われ、膵β細胞からのインスリン分泌はむしろ高まっているのに、同時に亜鉛が分泌されないために、肝臓で過剰にインスリンが分解されてしまい、その結果、筋肉などの末梢組織に届く全身のインスリン量が減少することが判明した。
一方、正常なマウスでは、インスリンと共に分泌される亜鉛が門脈を介して肝臓へ流れ込む、いわゆる「亜鉛の流れ」があり、亜鉛の存在が肝細胞へのインスリンの取り込みと分解を抑え、末梢でのインスリン量を保つ新たなメカニズムの存在が明らかとなったのである。
ヒトにおいてZnT8遺伝子は一塩基多型により2つのタイプがあり、その内、機能が弱いほうのタイプを有するヒトでは、マウスと同様に肝臓でのインスリンの分解が亢進し、全身に送られる末梢血中のインスリン濃度が低くなってしまう。それゆえ、正常な人たちと同じ程度のインスリン量を保つためには、膵β細胞がより多くのインスリンを分泌する必要があることがわかったのである。すなわち、遺伝子変異による亜鉛の分泌量の低下が、インスリンを分泌する膵β細胞に慢性的に過剰な負荷をかけ、2型糖尿病のリスクを高めている可能性があるというわけだ。
これまで糖尿病の原因は、「膵β細胞からのインスリン分泌の低下」と「末梢組織でのインスリン感受性の低下」により説明されていたが、今回の研究により「亜鉛分泌が少ないことによって起こる肝臓におけるインスリン代謝の亢進」も糖尿病発症に関わることが明らかにされた。インスリンを無駄なく全身で働かせることができるように、膵β細胞での亜鉛トランスポーターの働きを高める薬の開発などをできれば、糖尿病の新しい治療法に大きく貢献する可能性があるとしている。