ファンと一緒に新しい価値を創りだす「共創」に向けて関係性を深めていく中で、「リサーチ」はとても重要な施策の一つです。現在の関係性をリサーチデータから整理し可視化した上で、深化へ向けたアプローチを検討してみましょう。

皆様こんにちは、ソーシャルメディアマーケティング事業第一本部の藤田雅志です。

前回はソーシャルリサーチを活用し「ファン」を顧客化するヒントをご紹介しましたが、今回は更にファンとの関係を発展させ、共創によって新商品開発などで成功した事例とそのポイントをご紹介します。

ここ数年「共創マーケティング」という言葉を良く耳にしますが、その具体的な取り組みのヒントになれば嬉しいです。

ソーシャルWebを通じて共創を実現した事例

事例1 フィアット MIO

まずご紹介するのは、自動車メーカーのフィアットが、オープンコミュニティーで消費者を巻き込み、コンセプトカーを共同設計したというプロジェクトの事例です。
同社のWebサイトには40カ国から約10,000人がユーザー登録し、合計7,000件以上のアイデア、コメント、提案などが投稿されました。

このプロジェクトでは、下記の3段階でソーシャルリスニング(傾聴)を行いました。

第1段階 : 機能とデザイン
第2段階 : ブランディングとマーケティングのアイデア
第3段階 : 試作車に対するフィードバック

こうしたプロセスを経ることで、フィアット社と参加者は、共同開発の枠組みや開発のコンセプトを共有しながら、商品を「共創」することが可能になりました。 最終的に、同社は試作車を完成させ、サンパウロのモーターショーで披露しています。

※参照
日経Bizアカデミー 2012年5月21日掲載
「“ソーシャル離れ”“ソーシャル疲れ”を超え、真の「共創マーケティング」を実現するには?」
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120514/308636/

事例2 百人ビール・ラボ

次にご紹介するサッポロビールの「百人ビール・ラボ」は、テレビを含め様々なメディアで取り上げられたのでご存知の方も多いかと思います。

※参考記事
2013年7月第4回]話題のソーシャルメディアキャンペーン事例 今週のまとめ!
《サッポロビール、大塚製薬、コカ・コーラなど10選》
[http://smmlab.aainc.co.jp/?p=23051

昨年開催された第一期からは、延べ12,000名のビール愛好家と共同開発した「百人のキセキ」が誕生しました。2013年3月にインターネット限定で販売した3,000セット(6本入り、12本入りの合計)は発売直後に完売し、同年5月には同社グループが展開する「銀座ライオン」の首都圏27店舗にて樽生ビールで限定販売され好評を博しました。

今年は第二期として2013年7月に第1回投票を開始し、計7回の投票テーマを通じて製品化を行い11月下旬に新製品として発表される予定です。

サッポロビール 百人ビール・ラボ Facebookページ
https://www.facebook.com/100beer

ソーシャルメディアで共創関係を構築するには?

前回の記事でもご紹介しましたが、Facebookで「いいね!」を獲得してから共創関係になるまでに至るユーザー層は以下の5つに定義することが出来ます。

STEP1:ファン候補の獲得

まずはFacebook広告やキャンペーンなどを通じて、自社(ブランド)のFacebookページに「いいね!」をしてもらいます。

STEP2:ファン候補を共感層にする

Facebookページの運用担当者が一番頭を悩ませる点かも知れませんが、基本的にはブランド理解を促進するために投稿を工夫し、「いいね!」を促進する投稿記事を発信します。 また、キャンペーンでも単なるプレゼントだけではなく、アンケートを通じてユーザーの声を可視化し、その結果をFacebookページでユーザーと共有したり、それに対するリアクションを投稿記事として発信したりします。

STEP3:共感層を双方向層にする

こちらも基本的には投稿記事を工夫し、「いいね!」に留まらずコメントやシェアをしてもらえるように、例えば「○○についてどう思います?」のような、質問と言うよりは投げかけのような投稿をしたり、店舗イベントの状況やイベント参加者の声などを投稿するのが良いかも知れません。

また、実際に店舗などのリアルな顧客との接点が一番重要です。ずいぶん前ですが「真実の瞬間」というタイトルのCS経営に関する本が話題になり私も読みましたが、まさに顧客との接点は「真実の瞬間」なんだと思います。

STEP4:双方向層をファン層にする

商品・サービス自体に魅力があることが前提ではありますが、それに加えて、イベントのような特別な場へ招待し日常体験とは別のリッチな体験をしてもらったり、個別にコミュニケーションを図り「個客の声」に応えたりなどの体験を通じて再購買意欲を高めファン化をします。

最近では「アクティブサポート」というカスタマーサポートの手法が出てきています。詳しくは別の機会で触れたいと思いますが、ソーシャルメディアを通じて積極的にユーザーとコミュニケーションを図る新しい手法として私は注目しています。

STEP5:ファン層を共創層にする

まさに冒頭の事例でご紹介したようなアプローチです。 しかし、事例のような大規模な仕掛けに限らず、例えばフォトコンテストやアイデア募集などのキャンペーンでユーザーを巻き込んだアイデア企画をしつつ、人気投票キャンペーンでユーザーが決める演出をする、といった施策でも取り組みはできると思います。

例えば商品開発のプロセスにおいて、ソーシャルメディアを通じて消費者を巻き込んだ施策がうまく成功すると、参画したソーシャルメディアユーザーから拡散し、商品完了時点では既に話題化されている、というメリットもありますね。

現実的にはこうしたステップを綺麗に踏んで、共創関係を構築していくことは難しいかと思いますが、アプローチを整理する意味でご紹介させて頂きました。

共創マーケティングにおけるソーシャルリサーチの活用方法

ファンとの共創関係を構築するプロセスにおける、リサーチの有効な活用方法を一部ご紹介します。

活用方法1 自社の顧客が5階層のどの段階にあるかを可視化する

例えば自社のFacebookページにファン(候補)が10,000人いるとします。 若しくは、ソーシャルメディアキャンペーンでFacebookユーザーのファン候補を獲得したとします。 その際に、以下のようなアンケートとインサイトデータを複合的に分析します。

【アンケート項目】 - 自社の商品(サービス)の購買経験(利用経験)があるか? - 自社の商品(サービス)の満足度とその要因 - (購入経験がある場合)再購入意向があるか? - (購入経験がない場合)今後の購入意向があるか?

インサイトデータよりエンゲージメント率などのデータが取得できますが、そのデータより自社のファンのアクティブ状態が把握できますので、その状態と以上のような購買行動・意向のデータをアンケートにより取得することで、自社とファンとの距離感がデータ化できます。なお、不動産や高額商品のように再購入することが考え難い商材の場合には、再購入意向に変えて「知人・友人に紹介したいと思うか」を質問しても良いと思います。

また、上記の質問に加えて、競合商品との比較や購買決定要因なども質問すると良いと思います。ただし、質問数が多くなると離脱率が高くなるので注意しましょう。

このアンケートは1回だけ行うのではなく定期的に定点調査を行い、ファンの態度・意識変容をデータで把握し、発見された課題に対して対策をうちながらPDCAサイクルを回していくことが大切です。

活用方法2 ファン同士のコミュニケーションからインサイトやアイデアを得る

冒頭に紹介した事例はまさにこの活用方法ですが、ソーシャルメディアの特性を活かしたリサーチ方法と言えるでしょう。ここ数年ではMROC(Marketing Research Online Community)と呼ばれる手法です。

多くの場合はオンラインコミュニティー上でコミュニケーションを活性化させることから始めますが、その際には以下の事に留意して上手くファシリテーションしましょう。

留意点1 テーマはシンプルに分かりやすく設定する

留意点2 最初の段階ではファンからの投稿に細かく反応する

留意点3 他者に意見を投げかける
(例えば「良い意見ですね。○○について他の方はどう思いますか?」など)

留意点4 人気投票や表彰など、ゲーミフィケーションを採用する

留意点5 得られたインサイトやアイデアを共有し、次回の参加動機につなげる

この方法はアンケートと異なり、定量化することが難しいので有効性を疑問視する方もいるかも知れませんが、量よりは質を重視し「なるほど」と思えるキラリと光る意見を発見することが大切です。

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