京都大学は9月17日、バリア機能で重要なタンパク質「フィラグリン」の発現を促進し、アトピー性皮膚炎の症状を改善させる化合物を発見したと発表した。
成果は、京大医学研究科の椛島健治准教授、同大学次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点の大塚篤司研究員(現・チューリッヒ大学病院皮膚科研究員)らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間9月18日付けで米科学誌「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」に掲載された。
フィラグリンは「プロフィラグリン」として表皮で産生され、これが分解することで「フィラグリンモノマー」となり、皮膚のバリア機能を担う。またフィラグリンはさらに分解され、天然保湿因子として働くという特徴を有する。アトピー性皮膚炎患者の約20~30%のに、このフィラグリン遺伝子の異常が見られるという。
また、アトピー性皮膚炎の患者のほぼすべての方でフィラグリンが低下していることが知られている。アトピー性皮膚炎では、バリア機能が低下することで異物に対する免疫応答が過剰に誘導され、症状が悪化する可能性があるという。よって、これらのことからアトピー性皮膚炎におけるフィラグリンの役割は世界中で注目を集めている。そこで研究チームは今回、このフィラグリンの発現をコントロールすることでアトピー性皮膚炎を改善できるかどうかの検討を行った。
まず培養表皮細胞を用いて1000以上の市販の化合物ライブラリーから、フィラグリンの発現を亢進する物質のスクリーニングを実施。この結果、「JTC801」という物質が培養表皮細胞のフィラグリン(プロフィラグリン)の発現を上昇させることが明らかになった。
次にヒトの皮膚に近い構造を持つ3次元表皮培養にJTC801が加えられた結果、フィラグリンタンパクの発現が亢進し、フィラグリンモノマーの産生が上昇していることが判明。また、片側のフィラグリン遺伝子に変異を持つマウスに対するJTC801の投与により、フィラグリンの発現が上昇していることも確かめられた。さらに、アトピー性皮膚炎の動物モデルを用いた実験では、JTC801を内服させたマウス群で皮膚のフィラグリンタンパクが発現亢進しており、このことでアトピー性皮膚炎様の症状が改善することがわかったのである。
今回の成果により、フィラグリンの発現を上げることで、アトピー性皮膚炎を改善させうることが証明された形だ。また動物モデルにおいて、内服で皮膚のバリア機能を高め、アトピー性皮膚炎の症状を改善させうるシード化合物が発見されたことも注目された。今回の成果に基づき、今後フィラグリンをターゲットとした新たな治療戦略、特に新規内服治療剤の開発が期待されるとしている。