大阪大学(阪大)は9月3日、名古屋大学(名大)、チェコ科学アカデミー、スペイン・マドリッド自治大学との共同研究により、近接する2つの物体間に働く力とその間を流れる電流との間に単純な関係があることを発見し、そのメカニズムを解明したと発表した。

成果は、阪大大学院 工学研究科の杉本宜昭准教授、同・産業科学研究所の森田清三特任教授、名大大学院 工学研究科の阿部真之准教授らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間9月5日付けで米国物理学協会の「Physical Review Letters」オンライン版に掲載された。

2つの物体を近づけて接触させると、その間に斥力が働き、それ以上近づけることができない。すべての物質は原子から構成されており、接触面で原子同士が反発するためだ。ただし、接触する直前では、画像1に示すように2つの物体間には引力が働き、引き合う。原子間に働く引力は大変微弱なため体感することはできないが、この化学結合力により原子は互いにつながり、物質を構成しているのである。

画像1。近接する2つの物体。電子雲が重なることによって、化学結合力が働き、また電流が流れ

また2つの物体に電圧をかけると、物体間の距離が大変近い時は、接触していなくてもその間に電流が流れることが知られており、これは量子力学により説明される現象で、「トンネル電流」という。化学結合力とトンネル電流は共に、2つの物体の原子間にある「電子雲」(電子が存在し得る領域のこと)の重なりにより生じ、この一見異なる2つの物理量についての同等性が、量子力学の基本問題として長く議論されてきた。

そこで研究チームは2つの物体を接近させて、近接する2つの原子間に働く化学結合力とトンネル電流を精密に測定。微弱な力を測定可能な原子間力顕微鏡を使って、半導体であるシリコンに対しての実験が行われたのである。すると、トンネル電流は化学結合力の2乗に比例するという、単純な関係性があることが判明した。

画像2が、その化学結合力とトンネル電流の比例関係を表したグラフ。トンネル電流(I)の傾きが、化学結合力(F)の2倍であり、両者の間にI∝F2の関係が成り立っていることを示している。

これは、量子力学で予測されていたにも関わらず、これまで検証されていなかった初めての実験結果だ。この関係性は、エネルギーが等しい電子雲同士が重なり合った際に量子力学から期待される関係であり、理論計算により、実験で用いた半導体では確かにこの条件が成り立っていることも明らかにされた。

画像2。化学結合力とトンネル電流

化学結合力は、原子と原子とを結びつけ、さまざまな物質を構成する原動力だ。この力は化学・材料科学の中心的な役割を担い、また我々の身近な現象にも現れている。今回、その化学結合力と電流という基本的な物理量との間に、単純な関係性があることが実証された。この関係性は、さまざまな分子や材料を設計し合成するための指針となるので、新しい材料やデバイスなどの開発など、研究チームの生活に関わる成果に結びつくと期待できるとしている。