横浜市立大学(横浜市大)は9月6日、アルツハイマー型認知症の原因分子であるタンパク質「アミロイドベータ」が、別のタンパク質「クリンプ」のリン酸化を引き起こし脳内に蓄積することで認知機能が低下するという新たな認知症発症のメカニズムを発見したと発表した。

同成果は、同大学術院医学群の山下直也 助教、同 中村史雄 准教授、同 磯野俊成 大学院生、同 五嶋良郎 教授、名城大学の鍋島俊隆 教授、同 ツルスム・アルカム研究員、富山大学の新田淳美 教授、早稲田大学の大島登志男 教授、理化学研究所脳科学研究センターの御子柴克彦 教授らによるもの。詳細は、「Neuroscience Research」に掲載された。

アルツハイマー病などの認知症は、高齢化社会の問題の1つとして考えられているが、未だ、根本的な治療方法の確立には至っていない。アルツハイマー型認知症の原因はまだ十分に明らかになっていないが、近年の研究から、タンパク質「アミロイドベータ」が脳内に蓄積することで引き起こされるという説が有力となっている。

また、これまでの研究から、アルツハイマー病患者の脳内には、アミロイドベータに加えて翻訳後修飾であるリン酸化が生じたタンパク質「クリンプ」が多く蓄積していることも分かってきており、今回、研究グループでは、そのクリンプのリン酸化修飾が発生しなければ、アミロイドベータの効果が消失するかもしれないと考え、調査・研究を行ったという。

具体的には、クリンプのリン酸化修飾が起きないように遺伝子を改変したマウスを用いた調査として、シナプス長期増強という学習の能力を表す指標の1つを用いて検討を実施。その結果、アミロイドベータが抑制しているシナプス伝達効率の上昇効果が、リン酸化がおきないマウスではまったくみられないことが判明したという。

アミロイドベータが抑制しているシナプス伝達効率の上昇効果(グラフ上の赤線)が、リン酸化がおきないマウスではまったくみられないことが判明したことから、クリンプのリン酸化修飾がアミロイドベータの毒性作用の抑制に必要であることが示された

また、認知する能力を新しい物体だとわかる能力を指標とした評価を、あらかじめアミロイドベータを投与した普通のマウスと「リン酸化が起きないマウス」でテストした結果、クリンプのリン酸化を起こさないマウスではアミロイドベータの認知機能の低下がまったくみられないことが確認された。

クリンプのリン酸化が起こらないマウスではアミロイドベータによる認知機能障害が起きないことが確認された

これらの結果について研究グループでは、動物での結果ながら、ヒトのアルツハイマー病でもクリンプのリン酸化を抑えるという方法が認知機能の低下をおさえるのに有効かもしれないことを示すものであり、この成果を活用することで、リン酸化クリンプの抑制によるアルツハイマー病の発症や進行の阻止という新たな治療戦略の開発につながる可能性が出てきたと説明している。