国立天文台は9月3日、同天文台と東京大学を中心とする研究チームが、すばる望遠鏡に搭載された2つの可視光カメラの「Suprime-Cam」(従来の主焦点カメラ:Subaru Prime Focus Camera)と「FOCAS」(微光天体分光撮像装置:Faint Object Camera And Spectrograph)に青い光だけを透過するフィルターを装着して、へびつかい座の方向、約40光年のかなたにあるスーパーアース「GJ1214b」(画像1)の大気を観測したところ、晴れた水素大気の空で観測されるはずの強い「レイリー散乱」の特徴が見られないことが明らかとなり、GJ1214bは水蒸気を主成分とする大気を持つ可能性が高いことを示していると発表した。

成果は、国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室の成田憲保国立天文台フェロー/特任助教、同・岡山天体物理観測所の福井暁彦研究員、同・理論研究部の堀安範氏(日本学術振興会特別研究員)、東大大学院 理学系研究科の生駒大洋准教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、8月20日付けで米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

画像1。青い光で見るGJ1214bの惑星トランジットの想像図。恒星の右側の黒丸がGJ1214b(の影)。(c) 国立天文台

最近太陽系外に「スーパーアース」と呼ばれる新しいタイプの惑星が発見され始めている。スーパーアースは太陽系の地球と海王星の中間の質量と大きさを持ち(質量が地球の何倍から何倍という、明確な定義はまだなされていない)、大きな地球とも小さな海王星とも呼べる存在だが、基本的な性質はまだよくわかっていない。

まだ詳細なメカニズムはわかっていないが、惑星は原始惑星系円盤の中で生まれると考えられている。原始惑星系円盤の主成分は水素だ。しかし、中心星から離れた外側の領域では水の氷が豊富に存在しているとされる。そのため、スーパーアースの主要な大気成分の候補として理論的に予想されているのが、誕生した場所からどう移動したのかも考慮された上で、水素か水(水蒸気)のどちらかである可能性がという。

この主要な大気成分を知ることができれば、惑星がどのような組成でできているかを推定することができるだけでなく、その惑星がその場で形成されたのか、あるいは外側から移動してきたのかなど、惑星の形成過程についても推定することができるというわけだ。

研究チームが今回観測したのは、2009年にハーバード大学の惑星探索チーム「MEarth(マース)」によって発見されたスーパーアースの1つGJ1214bだ。主星であるGJ1214は温度が約3000Kと、約5800Kの太陽に比べるとかなり低温の恒星だ。そしてGJ1214bの軌道は、地球から見てちょうど主星の前を横切る形となっており、トランジット(食)を起こすことはわかっていた。

そしてGJ1214bの特徴の1つは、公転周期が約1.6日と主星にこの上なく近い点だ。もちろん太陽系でこのような距離の場合、水星よりも圧倒的に太陽に近いために液体の水が惑星の表面に存在できるハビタブルゾーンからはまったく離れてしまっているわけだが、この星系では異なる。主星の表面温度が低いことから、この星系のハビタブルゾーンはもっと主星寄りにあり、GJ1214bは同ゾーンよりやや内側(惑星の有効温度は400Kから550K前後)を回っているのだ。よって、主星に落ちる寸前のようなこんな近距離でも水が存在し得るのである。

GJ1214bのようなトランジットを起こす太陽系外惑星の大気組成を調べる方法の1つが、惑星のトランジットによる主星の減光をさまざまな波長で精密に測定し、その減光の深さが波長にどう依存しているかを調べる「透過光分光法」だ。そして、この方法でスーパーアースが水素と水蒸気のどちらが主成分なのかを判別する指標として、可視光でのレイリー散乱現象がある。

ちなみに、レイリー散乱とは光の波長よりも小さい粒子などによる光の散乱のことで、地上から空が青く見えたり(大気中の窒素分子の影響)、夕焼け・朝焼けの太陽が赤く見えたりする(夕焼け・朝焼けは大気を通過する距離が長くなるため、波長の短い紫側から散乱され、長い赤側が残って目に届く)理由として有名だ。

もしこの惑星が水素を主成分とする大気を持っており、なおかつ空が晴れているとすると、この現象により青い光ではトランジットの減光が大きくなる(画像2~4)。しかし、GJ1214は青い光ではとても暗いため、高い精度でトランジットを観測することが難しく、この惑星の空でレイリー散乱が見られるのかどうかを判断するのは困難だった。

惑星の空の様子とトランジットによる減光の波長依存性を表した概念図。画像2(左):惑星が水素を主成分とする広がった大気を持つ場合、主星からの光が惑星の大気を透過する際に青い光の方が多く散乱されてしまい、赤い光の方が多く透過してくる。これにより青い光の方がトランジットによる減光の深さが深くなる。画像3(中):惑星が水蒸気を主成分とするあまり広がっていない大気を持つ場合、主星の光はあまり惑星の大気によって散乱されず、青い光から赤い光までほぼ同じトランジットの深さとなる。画像4(右):惑星が厚い雲で覆われていた場合、惑星が水素の広がった大気を持っていても、惑星の大気を透過した主星の光が観測者に届かないため、青い光でも赤い光でもほぼ同じトランジットの深さとなる。(c) 国立天文台

そこで研究チームは、すばる望遠鏡のSuprime-Cam(主焦点カメラとしては、超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム:HSC)」がすでに本格稼働しているが、それ以前の観測であり、従来型のSuprime-Camが使用されている)とFOCASに青い光(Bバンド、波長4500オングストローム付近)だけを通すフィルターを装着し、この惑星のトランジットを2回観測した。これはこの惑星に対して行われた観測の中で最も短い波長(青い光)での観測であり、これまでで最も高い精度でトランジットをとらえることに成功したのである。

その結果、研究チームはGJ1214bの空には晴れた水素大気の存在を示すレイリー散乱の特徴が見られないことを発見(画像5)。これは画像3のようにGJ1214bの大気が水蒸気を主成分とするものか、画像4のように厚い雲に覆われた水素の大気を持つことを意味している。そして、過去のより長い波長での観測結果と合わせることで、この惑星が水蒸気を豊富に含んだ大気を持つ可能性が高いことが明らかとなった。

ただし、厚い雲に覆われた水素の大気である可能性が完全になくなったわけではないので、これからも独立した観測による検証が行われていくと予想されるという。実際、チリにあるヨーロッパ南天天文台が建設した8.1mの超大型望遠鏡「VLT(Very Large Telescope)」を用いて、同じ波長でGJ1214bを観測したデ・モーイ氏らも、ほぼ同時期に今回の観測結果を裏付ける結果を独立に発表している。

画像5は、今回のすばる望遠鏡による青い光での観測結果と、同じ論文で報告した南アフリカ天文台のIRSF1.4m望遠鏡による近赤外線での観測結果を、水素に富んだモデル、水蒸気に富んだモデル、厚い雲に覆われたモデルと共にプロットした図。すばる望遠鏡の観測結果から、青い光でトランジットが深くなっておらず、観測されたどの波長でもだいたい同じトランジットの深さであることがわかる。

画像5。すばると南アフリカ天文台の観測結果を、3つのモデルと共にプロットした図 (c)国立天文台

このように惑星の空の詳しい観測ができるスーパーアースは、まだ少数しか発見されていない。GJ1214b以外のスーパーアースには2012年に発見されたGJ3470bがあるが、研究チームはこのGJ3470bについても、岡山天体物理観測所の観測装置を用いてその大気を観測し、GJ3470bは水素を主成分とする晴れた空を持つ可能性が高いことを明らかにしている(記事はこちら)。

このことから、スーパーアースの空はどれも同じではなく、多様な世界が広がっていることがわかる。この違いを理解するためには、これからも多くのスーパーアースの空を調べていくことが重要となるという。

今回のように惑星の空を調べることができるスーパーアースは、将来の全天トランジット惑星探索計画「TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)」などによって、これから数多く発見されると期待されている。今回の研究を主導した国立天文台フェローの成田氏は、「今回の惑星はハビタブルゾーンよりやや内側にありましたが、もしちょうどハビタブルゾーンにあるような惑星が発見されれば、同じ観測方法でその惑星の大気を調べることができます。その時には、すばる望遠鏡や将来のTMT(30m望遠鏡)などによって、これから発見されるスーパーアースたちの詳細な性質を明らかにしていくことができるでしょう」と、今後の研究に期待を述べている。

研究チームのリーダーである国立天文台の成田憲保氏による解説(2013年9月3日撮影)。(c)国立天文台