Analog Devices(ADI)は8月26日、都内で会見を開き、同社の自動車市場に向けた取り組みの説明を行った。
自動車業界のエコシステムはおおざっぱに言うと、各自動車メーカー(OEM)の下に電装品などを供給するシステムサプライヤ(ティア1)がおり、そこに各種の部品や半導体デバイスのメーカー(ティア2)が製品を提供するという構造だ。日本でも基本的に同用だが、市場の状況は各国によって異なってくる。例えば日本の自動車メーカーの中心市場の1つである日本では、平均使用年数の長期化や若者のクルマ離れといった現象よる販売台数の減少にどう対応していくか、ということが課題となる一方、新興国市場ではそれぞれの国に応じてまったく異なるニーズにどうやって対応していくかといったことなどが課題となっており、そうした先進国市場での販売台数維持と、新興市場でのシェアアップの両立をどうやって実現していくのかが事業を成長させるうえで重要になってきている。
「日本のOEMメーカーはこれまで色々なイノベーションを生み出してきたが、市場が成熟するにしたがって、他国メーカーがシェアを奪っていくという構図があった。そうした中、日本のOEMメーカーがシェアを維持し、世界のトップに居続けるためにはどうするべきか。ADIには、その手助けができる。具体的には、日本の自動車メーカーはこれまで高い生産性を実現することで成長してきたが、ニーズが多様化する現在、それをよりパーソナル化していく必要がある。その手助けを我々が行うことで、各地域や国のニーズに応じた柔軟な自動車の提供が可能になる」」と、同社Vice President,Automotive Business UnitのMark Gill氏は語る。
そうした同社が自動車分野向けに注力している領域は「安心・安全」「パワートレイン」「インフォテインメント」の3つ。中でも安全の実現においては、「予測」、「予防」、「保護」の3つの視点がビジネスの柱になっており、1993年に世界初のMEMSエアバッグセンサの提供を皮切りに、現在までに高振動耐性ジャイロスコープなど、さまざまな車体制御や搭乗者保護ソリューションを提供してきた。
ADIのVice President,Automotive Business UnitであるMark Gill氏 |
「安全という面においては、日本では年間5000件の交通事故死が発生しており、中でも歩行者の死亡事故が最も多い。日本政府も、そうした現状を鑑み、2018年までに交通事故の死者数を半減させるという目標を掲げている」(同)。同社の安全に向けた戦略はもともとはエアバッグなどの車内向けのものであるが、交通事故の死者数を減らすためには、車外、歩行者などの安全も含めたソリューションを実現する必要があることから、「最終的には統合型の予測安全として、車間距離などの測定を行うレーダー技術の高精度化、低コスト化の実現による一般車などへの搭載に向けた取り組みが必要」(同)との見方を示しており、各種センサなどの性能向上を図っていくとする。
同社は現在、レーダー分野としては24GHz帯の製品を提供しており、比較的低コストなコンポーネントへの搭載が進み、自動ブレーキシステムなどへの適用も需要が増えてきたという。また、DSP処理によるコンピュータビジョン(CV)技術も有しており、ビジョンとレーダーシステムの組み合わせに向けた77GHz帯製品の開発も進めているとする。
すでに77GHz帯対応製品は複数の半導体デバイスメーカーから提供され、それを搭載した自動車も販売されている。また、カメラを用いた衝突防止技術も実用化されている。そのような状況において、後発となるADIがどのような強みを発揮するのか。同氏は、「我々は信号処理のすべてを見ることができるノウハウ、技術を持っており、それを組み合わせることで、単に1つの半導体デバイスを提供するのではなく、強力なエンドツーエンドの通信ソリューションを提供することができる」とのことで、コストもさることながら、トータルソリューションという形で提供していくことで、他社に比べて高い精度などを実現することで、採用を狙っていきたいとした。
また、同社ではレーダーなどによる予測、加速度センサやジャイロセンサによる横滑り防止などの予防、そして事故発生時の人命保護に向けた高G加速度センサやジャイロセンサなどによる保護と、「先進運転支援システム(ADAS)からエアバッグのようなパッシブセーフティの始動まで自動車の安全に関するフルソリューションを揃えている稀有な半導体ベンダ」であるという点も、そうしたトータルソリューションとして活用できるとの見方をしており、「自動車メーカーが求める次世代の安全性の実現に向けた技術などの洞察が可能なサプライヤとして、日本のカスタマからの要望に応える半導体を提供するべく、デザインセンターも設置しているほか、ティア1ではなく、OEMメーカーと話をする営業チームも専任チームとして持つことで、次世代車で実現したい機能などをいち早く入手することが可能」(同)であり、今後も、持てるすべての信号処理技術を自動車分野に提供していくことで、自動車メーカーが燃費向上、快適性、安全性といったことを、従来以上に実現していく手助けをしていければとした。