産業技術総合研究所(産総研)は8月28日、ネオン高速原子ビームを用いてシリコンの表面を平滑化することで接合部のひずみを低減させ、信頼性の高いマイクロデバイスが作製できる表面活性化常温接合プロセスを開発したと発表した。

同成果は、同所 集積マイクロシステム研究センター 大規模インテグレーション研究チーム 倉島優一研究員、高木秀樹研究チーム長らによるもの。詳細は、関西大学で9月12日~14日に開催される「2013年度精密工学会秋季大会学術講演会」にて発表される。

平滑化が不十分なシリコン表面同士の接合界面(a)とネオン高速原子ビームにより十分に平滑化されたシリコン表面同士の接合界面(b)。透過型電子顕微鏡により観察したもので、シリコンの接合界面付近の白黒のコントラストがひずみを表している

現在、様々な用途で、加速度センサやジャイロセンサ、ディスプレイ用ミラーデバイスなど、様々なMEMSデバイスが製品化されている。その一方で、課題とされているのが、微小な機械可動部などの保護やICとの集積化が必要のため、コスト全体に占めるパッケージングコストの割合が高いことである。今後、市場拡大を図っていく上で、低コストかつ高い信頼性を備えた製品が不可欠とされており、ウェハレベルでの接合技術が求められている。

産総研では、8インチウェハによるMEMSの量産製造試作ラインなどを保有し、企業と共同で様々なMEMSデバイスの量産試作開発に取り組んでいる。その中で、高い生産性でダメージが少ない接合方法として、表面活性化常温接合によるMEMSやLSIのパッケージング技術を開発している。表面活性化常温接合は、真空中で高速原子ビームなどを用いて固体表面の酸化物や吸着分子をスパッタリング効果により除去して表面を活性化した後、活性な表面同士を接触させ、常温で原子間結合を形成して接合する。これまで、三菱重工業の協力により接合装置として実用化を進め、MEMSをはじめとする様々なマイクロデバイスの作製工程に使用されている。

表面活性化常温接合

同接合法では、接合する面が清浄で、原子レベルで平滑にする必要がある。そのため、MEMSやICの作製プロセスなどにより、接合するシリコン表面が荒れてしまった場合、接合部のひずみが増大し接合が困難になるという課題があった。表面が荒れている場合にはCMPなどにより表面を研磨する必要があるが、可動部を持つMEMSデバイスには研磨液を用いたウエットプロセスを適用できない。また、これまで表面活性化常温接合ではアルゴン高速原子ビームが用いられてきたが、長時間の表面活性化では表面が荒れ、接合部のひずみが増大するとともに接合強度が落ちてしまうという問題があった。

今回の研究では、既存の表面活性化常温接合装置として三菱重工の「MWB-12ST」を使用し、ガス種にネオンを用いた高速原子ビームにより、表面を荒らさないで表面活性化すること、荒れた表面を平滑化して接合部のひずみを低減し接合強度の向上を図ることを目指した。

これまでのイオンビームによる精密加工の研究から、軽い元素を用いるとシリコン表面を荒らさずスパッタリングによる除去ができることが分かってきた。そこで、不活性ガスの中でも比較的軽い元素であるネオンを高速原子ビームのガス種として、既存の表面活性化常温接合装置を用いて、表面活性化常温接合への適用可能性を評価した結果、シリコンのバルク強度に匹敵する接合エネルギーが得られた。これは従来のアルゴン高速原子ビームを用いて接合を行った場合と同程度であった。

さらに、MEMSデバイスの作製を想定して、ドライプロセス(キセノン高速原子ビーム照射)により表面粗さ0.40nm rmsまで荒らしたシリコン表面にネオン高速原子ビームを照射して、表面の平滑化を図った。その結果、ネオン高速原子ビーム照射とともに表面粗さが小さくなり、最終的に表面粗さ0.17nm rmsまで平滑化できたという。この表面粗さの値は、CMPにより研磨されたシリコンの表面粗さと同程度であり、ネオン高速原子ビーム照射により非常に平滑な表面が得られたとする。

ネオン高速原子ビームによる表面平滑化の様子

さらに、ドライプロセスによりシリコン接合表面を荒らした後、ネオン高速原子ビームで平滑化を行い接合した際の接合エネルギーと、接合界面の透過型電子顕微鏡像を確認したところ、キセノン高速原子ビームを照射して荒れた表面では接合が困難であるのに対し、ネオン高速原子ビームをシリコン接合表面に照射することで接合エネルギーが増大し、最終的にシリコンのバルク強度に匹敵する接合エネルギーが得られた。また、ネオン高速原子ビームによる平滑化によって接合界面のひずみが小さくなること、ならびにドライプロセスによりシリコン接合表面を荒らした後にネオン高速原子ビームにより8nm加工した場合、CMPにより研磨したシリコンウェハを接合した場合と同程度まで接合部のひずみが減少することが確認された。

荒れたシリコン表面に対してネオン高速原子ビームの平滑化効果を用いて表面活性化常温接合した際の(a)接合エネルギーと、(b)および(c)接合部のひずみを表す透過型電子顕微鏡像。接合界面付近の白黒のコントラストがひずみを表している

なお、研究グループでは今後、開発したネオン高速原子ビームの表面平滑化効果による接合強度向上を利用した表面活性化常温接合に関して、低ダメージ、接合部の低ひずみが要求される化合物半導体やMEMSをはじめとする種々のマイクロデバイス分野に応用を広げる予定。また、MEMS開発企業との連携により、デバイス応用と低コストで高信頼性のパッケージングを実現させ、MEMS市場の拡大を図っていくとコメントしている。