富士通研究所は、データを暗号化したまま統計計算や生体認証などを可能にする準同型暗号の高速化技術を世界で初めて開発したと発表した。
データを暗号化したまま演算処理が可能な暗号方式として「準同型暗号」があるが、従来の準同型暗号はビット単位で暗号化を行うため処理時間が長く、電子投票などで利用されている加算処理のみが実用化されているという。準同型暗号を用いて任意の演算を行う方式はIBMが提唱しているが、処理速度に課題があり、実用化されるのはまだ先だという。
そこで富士通研究所は、ビット列の内積処理に着目し、限定回の加算と乗算処理を実用レベル行える準同型暗号の高速化技術を開発した。
同社が開発した技術は、2つの平文を暗号化する際に、多項式の掛け算が持つ特性を利用して、1つは昇順にもう1つは降順にビット列を並びかえた上で各々を多項式に変換する工夫をすることで、暗号化したまま1回の乗算で内積計算するもの。これにより、従来のビットごとに暗号化し秘匿演算する処理に比べて、処理性能を飛躍的に向上し、例えば2,048ビットのデータを用いた場合は2,048倍の高速処理が可能となるという。
同社によれば、この技術を利用すると、従来12秒程度かかっていた暗号化したままでの生体認証の照合処理を数ミリ秒まで短縮できるという。また、医療や生化学データといった機密情報のデータ分析など、これまでプライバシー保護が壁となっていた複数の企業にまたがった情報活用が促進されるという。
同社は本技術の詳細を、9月2日からドイツのレーゲンスブルグ大学で開催される国際会議MoCrySEn2013、9月12日からイギリスのロンドン大学で開催される国際会議DPM2013で発表する予定。
同社によれば、今回の技術はアルゴリズムを公開することで他社でも実用化できるが、特許を取得しており、他社に対してはライセンスで提供する予定だという。
富士通研究所では本技術について、2015年の実用化を目指して実証実験などを進めていく。