東京都医学総合研究所(医学研)は8月26日、毎年夏に流行する手足口病の原因ウイルスの1つである「エンテロウイルス71(EV71)」感染受容体をマウスに発現させることで、ヒトと類似した中枢神経系合併症を起こすマウスモデルを作製することに成功したと発表した。

同成果は、東京都医総研ウイルス感染プロジェクトの藤井健研究員、小池智副参事研究員、遺伝子改変動物室の島貫碧研究員、設楽浩志研究員、多屋長治研究員らによるもの。詳細は米国の科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン版に掲載された。

これまでEV71は、よい感染動物モデルがなかったため、神経病原性発症機序は解明されておらず、ワクチンや抗ウイルス薬の開発にも至っていなかった。

そうしたことから研究グループは、EV71の感染成立に必要な受容体を同定し解析を進める中において、今回、EV71感染受容体であるヒトSCARB2を発現するトランスジェニックマウス(hSCARB2-Tgマウス)の作製に成功。また、同マウスをEV71に感染させると、感受性を示し、弛緩性麻痺などの中枢神経系合併症を引き起こすことを確認した。

マウス中枢神経系におけるウイルス増殖。マウスにEV71を静脈内接種し経時的にマウス臓器を採取後、組織内のウイルス量を定量したもの。ウイルス接種後5日目、7日目に神経症状を示したhSCARB2-Tgマウス(赤丸)の脳および脊髄でウイルスが増殖していることが確認された。一方hSCARB2を導入していないマウス(白丸)と神経症状を示さないhSCARB2-Tgマウス(黒丸)の脳および脊髄のウイルス量は検出限界以下であった

また、同マウスの中枢神経系にてウイルス増殖を発見したほか、EV71が神経細胞に感染していることが確認。これらの結果から、同マウスがEV71感染に対してヒトと類似した中枢神経系合併症を示す、よいEV71神経病原性マウスモデルであることが示されたという。

神経症状を示したhSCARB2-TgマウスのEV71検出部位。hSCARB2-TgマウスにEV71を静脈内接種し、神経症状を示したマウスの中枢神経組織を抗EV71抗体により免疫染色法を行った。上記部位において神経細胞がEV71陽性であった(茶色で染色されている細胞)

なお、今回の結果について研究グループでは、よいEV71神経病原性マウスモデルを確立したことを示すものであり、これにより神経病原性発症機序の解明、さらにはワクチン・抗ウイルス薬開発につながることを期待できるようになるとコメントしている。