金沢大学は、未知の毒性タンパク質である「Fungal Fruit Body Lectin(FFBL:子実体レクチン)」が、ムギ類赤かび病菌の中に存在することを発見したほか、モデル植物であるシロイヌナズナには、FFBLタンパク質を解毒するためのタンパク質である「チオニン2.4」が存在し、植物体内に解毒メカニズムを有することを明らかにしたと発表した。

同成果は同大学際科学実験センターの浅野智哉 博士研究員および西内巧 准教授と名古屋大学の研究グループによるもの。詳細は米国の生物学専門誌「PLOS Pathogens」オンライン版に掲載された。

ウイルス、細菌、真菌などの病原体はヒトや動物の中でさまざまな病気を引き起こすほか、植物にも病気を引き起こすことが知られている。中でも真菌類は植物の病気の大部分を引き起こすことが知られており、農作物が被害を受けた場合、人の生活にも大きな被害を及ぼすこととなる。

多くの動物では、体内に抗原を認識し病原菌を排除する免疫システムである獲得免疫系を持っているが、植物がそうした獲得免疫系を持っているのかどうかは知られていない。

しかし、生物同様に自然免疫システムを多くの植物が有していることが知られており、中でも植物細胞固有の構造体である細胞壁は、物理的に強固な構造体であることから、病原体の侵入を防ぐ大きな役割を担っていると考えられているほか、植物がさまざまな抗菌性の物質を生産し、それらを放出することによって病原菌の繁殖を抑える機能を有していることも知られている。

研究のモデル植物であるシロイヌナズナでは、抗菌性タンパク質「チオニン」を4種類有し、それが細菌や真菌に対する殺菌作用を発揮することが知られているが、今回の研究では、花だけで発現するシロイヌナズナのタンパク質「チオニン2.4(Thi2.4)」に着目し、Thi2.4が植物の細胞壁と細胞外の領域に存在し、少なくともムギ類赤かび病菌に対して殺菌作用を持っていることを明らかにした。

また、Thi2.4と相互作用するムギ類赤かび病菌のタンパク質を探索したところ、FFBLと相互作用することを発見。FFBLに似たタンパク質はキノコやイソギンチャクにて発見されていたが、どのような機能を持つかよく分かっていなかったことから、さらなる研究としてその機能の解明に向け、FFBLをシロイヌナズナの葉に注入。その結果、シロイヌナズナの葉で多くの細胞死が観察され、さらにFFBLを欠損させたムギ類赤かび病菌はシロイヌナズナに対する病原性が低下することが確認されたことから、FFBLが毒性タンパク質であることが判明したという。

なお、研究グループでは、今回の新たなカビの毒性タンパク質の発見と、その解毒メカニズムの解明は、将来、医療や農業の分野において大きな貢献をもたらすことが期待されるとコメントしている。

Thi2.4のFFBLに対する防御イメージ