名古屋大学(名大)大学院環境研究科 地震火山研究センターの田所敬 研究室は、南海トラフに沈み込むプレート上に海底地殻変動(海底GPS)観測点を設置したと発表した。
南海トラフは、東海、近畿、四国の沖合にまたがる水深4000m級の溝(トラフ)で、活発な地震発生帯として知られている。将来発生するであろう巨大地震の仕組みは、西南日本を乗せている陸のプレートの下にフィリピン海プレートが沈み込むことで歪みが蓄積し、その歪みが大きければ大きいほど、解放された際の地震や津波の規模も大きくなる。
この歪みの蓄積は陸のプレートと海のプレートの境界が固着していることにより生じ、そこの固着の度合い(固着率)が高ければ高いほど、大きな歪みが蓄積されることとなるため、その固着率をどれだけ正確に把握できるかが、巨大地震の長期評価や津波想定を詳細に行っていくためには必要となるのである。
固着率の値は、「沈み込む海のプレートで動く速度」に対する「陸のプレートが引きずり込まれる速度」の割合で表されるため、沈み込む海のプレートと陸のプレートの速度を正確に測定する必要があるが、現在、フィリピン海プレートの速度は、主に周辺の陸地で測定された地殻変動データをもとに推定して算出していた。また、その算出するための陸地も、大部分が海域であるため、大東諸島と伊豆半島南方の銭洲岩礁しかなく、実際にフィリピン海プレートの速度を図るというのは困難であった。
そこで今回、研究グループでは、海底GPSを活用することでフィリピン海プレートの速度を実測することを考案した。海底GPSは、海底GPS観測点(海底局)と船の間で超音波を送受信し、海底局の位置(座標)を決定することで、海底の移動を直接測定する技術。同調査は同大のほか、日本では海上保安庁と東北大学が実施しているほか、海外でも米国1機関が実施しているという。
すでに同大では、三重県水産研究所の協力を得て、2004年から海底GPS技術を用いた陸のプレートの移動速度の実測を実施し、東南海地震の震源域内に位置する熊野灘直下の海底が1年間で4cm前後の割合で紀伊半島方面(西北西方向)に移動し、少なくとも熊野灘直下では陸と海のプレートが固着し、歪みが蓄積していることを確認。2013年7月には大規模な津波が発生する可能性の調査のために、新たな観測点も設置したという。
なお、今回の海底GPS観測点は、三重県尾鷲市南東沖約170km、水深約4150mの地点1カ所であり、研究グループでは、それだけで総延長600km以上におよぶ南海トラフすべての固着状態を知ることができないとしており、今後のさらなる観測点の増強の必要性を語るほか、継続して観測を行っていく体制の整備や、効率的な観測を実現するための技術開発が求められてくるとしている。