科学技術振興機構(JST)は8月9日、東京・上野にある国立科学博物館にて、国際科学技術コンテスト大会を総括する説明会を開催し、Intel ISEF 2013ならびに国際地理オリンピックなどの活動報告を行った。
JSTはこれまで、科学技術人材育成に向けたさまざまな理数教育強化施策を実施してきたが、その中の1つに国際科学技術コンテストへの参加を支援するという事業を2004年より行ってきた。
JSTが支援する国際科学技術コンテストは大きく3つ。1つ目は中等教育課程(日本では主に高校生)を対象とした科学オリンピック(数学・物理・化学・生物学・情報・地学・地理)への参加支援。2つ目は、米国で毎年開催されている自由課題研究コンテスト「Intel ISEF」への参加支援。そして3つ目がロボットをテーマとした「ロボカップジュニア」ならびに「WRO(World Robot Olympiad)」への参加支援だ。
JSTの理数学習支援センターの植木勉 副センター長は、「日本の国としては、底辺の拡大も重要だが、伸びる子を伸ばしていくことも重要。世界でそういった能力の子供が沢山おり、それを伸ばそうとしており、日本もそれに負けない取り組みをしていく必要がある」とし、日本でのサイエンス分野の浸透に向け、科学オリンピック開催地の国内誘致なども行ってきた。2013年も国際地理オリンピックが7月30日から8月5日まで京都で開催されたばかりだが、2016年には地学の開催が決定しているほか、2020年の物理の開催地として立候補をしているという。
「科学オリンピックを国内で行うことで、参加する生徒だけでなく、国民全体として科学リテラシを向上することにもつながるほか、グローバルな人材交流・育成、そして大学教員がコーチとして参加することによる高校と大学との連携強化などが図れ、論理的な思考のもと、それをきっちりと説明できる能力などの向上が図れることなどを期待している」(同)と、科学分野において世界で戦える人材の育成を狙っていることを強調する。
では、実際にそうした科学オリンピックやIntel ISEFに参加している生徒側はどう見ているかということで、今回の報告会にはそれらの大会に参加した3名が出席、様々な体験を通じて感じたことなどを語った。
1人目はIntel ISEF 2013に参加し、「微小貝は古環境指標として有用か」をテーマに地球惑星科学(EARTH&PLANETARY SCIENCE)部門で1等賞を受賞し、日本初の部門最優秀賞(Best of Category)に選ばれた田中堯さん(千葉県立千葉高等学校2年)。
発表前に名古屋大学の大路先生より指導を受けており、自身の調査・研究による貝化石群集解析では地質の上層ほど寒冷化が示されたが、岩相からは全層準通じ堆積場の激変はないという違いの合理的説明の議論から、その違いをいかに論理的に説明していくか、また、科学英語として、いかにインパクトを持たせながら、専門家以外でもわかるような英単語を使い、なおかつ研究の本質を外さないタイトルの付け方などを学んだという。「じっさいにこうした経験は高校では教わることができないが、もし、そうしたことが教わることができれば、自分の考え方などを形成していくうえでも非常に役に立つと思う」と語っていた。
2人目は、同じくIntel ISEF 2013に参加し、「動く棒が水面に描く波模様の研究」をテーマに物理学・天文学部門 米国物理探査学会賞および米国音響学会賞佳作を受賞した佐藤友彦さん(広島県立府中高等学校)。
実はIntel ISEFの参加者たちは開催前に、日本のインテルが事前研修を実施し、プレゼンテーションや英語での発表などのトレーニングをIntel ISEFに参加したOBやIntelスタッフから受け、想定質問などを含めて、すべて英語で受け答えができるようにトレーニングを受けていた。
そうした経験を経て、本番のポスターセッションで来場者からの質問などに答えていくのだが、「主観だが、日本では研究内容そのものに対する質問が多かったが、米国では、その研究結果の応用や、今後の展望などを聞かれることが多かった」とのことで、価値観の違いを感じたほか、「みな、自分の主張を強く持っており、積極的に伝える、という姿勢が印象的で、人にわかりやすく伝える、ということの難しさを感じたが、その反面、片言の英語でも伝えようとすることで、通じることが分かった」と、英語教育そのものよりも、英語を使う姿勢が重要であることに気付かされたとした。
そして3人目は、国際地理オリンピックの第9回大会で銅メダル、そして先日終えたばかりの第10回大会で銀メダルを獲得した加藤規新さん(奈良女子大附属中等教育学校卒)。
地理というと、日本の場合、地形がどうであったり、地図の見方だったりというイメージが強いが、国際地理オリンピックで扱うのは「人間の生活に影響を与える地域的、社会的な構造」といった地理の本質そのものであり、問題としても、フィールドワークや地震が発生した際にどういった行動をするべきなのか、というようなものや、筆記試験では、「例えば、シェールガスに関する問題では、採掘手法だけでなく、各国の思惑なども書けという問題もあった」という。
個人的には競技を行うよりも、そうした場で友達を作る方が好きとのことで、そうした背景には自分の意思で小学校に行かなかったことや、奈良女子大附属中等教育学校で学んだことなどを挙げた。特に中高一貫教育に対しては、「自慢の母校。科学教育では実験が多く、教科書はまったく使った記憶がない。そこには一般的な日本の教育の、例えば折り鶴の折り方を一から教えるような教育ではなく、見栄えが悪くても良いから、自分で折り方を見つけなさいという教育があり、好奇心を満たすための探究心の強さがあった」とのことで、今回の経験から、社会に求められるのは従来型の教育ではなく、こっち(自分が受けたような)の方だと思った」とした。
日本サイエンスサービスの理事で自身もIntel ISEFのOBである西本昌司氏 |
また、Intel ISEFに参加する高校生たちを支援する日本サイエンスサービスの理事で自身もIntel ISEFのOBである西本昌司氏は、「先日のテレビドラマ"半沢直樹"の1シーンに出てきた"理系の子"という本は、実はIntel ISEFのドキュメンタリーなので興味のある人は読んでもらいたい」とIntel ISEFの宣伝をしながら、3人の生徒たちが発言を受ける形で、「個人の探究心が、こうした大会でどの程度、受賞に影響しているのかを調べたところ、2000年以降の調査としてサンプル数60程度で、実際にどの程度の精度がとは言えないが、参加者は学校が用意したテーマと自分の個人的な興味で半々ながら、受賞割合は個人的な興味の方が確率として高いという結果が出た」とし、研究の質向上には個人の探究心が必要であり、例えそれが学校から与えられたテーマであっても個人の探究心が高ければ問題ないことを強調したほか、同世代が、指導教員などが居ない、反論しやすい状況でディスカッションし、考えを深めていく重要性と、研究経験者による適切な指導の重要性を説いた。特に「今後、ポストドクターなど、研究に携わった経験のある人を高校が雇用し、研究をしたい生徒たちを支援する環境や、そういった生徒にあこがれる雰囲気を醸成していく必要がある」と、社会構造そのものを変化していく必要性を訴えた。
一概には言えないものの、テーマが学校が提示したものよりも個人的に興味を持って高いモチベーションを維持していた方が受賞の割合が高い傾向があり、そうした研究の資質を向上させるための取り組みが必要になってくるという |
東京農工大学の米澤宣行 教授 |
さらに、国際化学オリンピックの引率者や、教科書検定、大学入試センターの出題人などを務めた経験を持つ東京農工大学の米澤宣行 教授は、「世界の科学大会はコンクールとコンテストの2つに分けることができる。楽器の演奏など、出題範囲が決まっているのがコンクールで、大まかな範囲だけ決められて、その中でどうやって答えを見つけていくかがコンテスト。科学オリンピックはコンクール、Intel ISEFはコンテストであり、大学入試に近いのがコンクール、自由研究に近いのがコンテスト」との見方を示し、世界の潮流は「PBL(Project Based Learning)」であり、そのための生活や技術に密着した科学学習や科目間の壁を取り払った学習の機会の提供が進んでおり、中等教育でのトップ育成の制度として、早期選別専門家教育が米国、欧州ともに整備されてきていることを指摘(米国ではAdvanced Placement(AP)、欧州ではInternational Baccalaureate Diploma Programme(IBDP))、日本でもどういう人材をどの程度の規模で育てていくかを考える必要性があるとした。
しかし、現状の日本の教育体系は、純粋科学であり、生活や産業と密着しておらず、かつ数学や化学、生物など科目によって垣根が存在する形で、広く学習する必要があるほか、変革を実行しようとする際に最大の障壁となるのが大学入試、そして教育担当者の変化への抵抗などであるという。「コンクールに強い人間ではなく、デザインや事業企画コンペに強いコンテスト型の人材が重要で、科学オリンピックの枠もコンクールからコンテストに向けるべき。そういった目標を立てた上で、手法の垣根を省き、現実から原理を掘り下げていく方向に変え、高校の教員だけでなく、外部の協力者や大学との連携を取ることなどが求められるようになってくる」としたほか、「科学技術コンテストは国内でも実施されているが、科学オリンピックの予選みたいな状況になっている。そうした予選としてではなく、違った趣旨を立て、参加してくれた人たちが満足できる仕組みを作って行く必要があり、それをJSTや教育現場、省庁、社会全般など、さまざまな場所で議論を行い、実現に向けた取り組みを進めていく必要がある」とし、今回出席してくれたような好奇心や探究心を持つ高校生を増やしていく必要があるとした。
なお、国立科学博物館では、7月23日から8月18日まで「サイエンススクエア 科学と遊ぶ夏休み!」を開催しており、8月9日から11日までの3日間、その中のイベントの1つとしてIntel ISEF 2013で実際に展示されたポスターなどが展示されている。そのほかの展示も、実際に手で触れたり、作ったりできるものばかりなので、子どもを科学に触れさせたい、といった想いを持つ方や、夏休みの自由研究の課題をどうしようと悩んでいる方などが居たら、ぜひ一度足を運んでみてもらいたい。