大阪大学(阪大)は8月6日、ヒトのDNA損傷に関わるタンパク質「hEndoV」を同定したほか、その酵素活性を調べた結果、RNA編集に関与するRNA切断酵素「i-RNase」であることを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大大学院基礎工学研究科の倉岡功 准教授らによるもの。詳細は英国科学雑誌「Nature Communications」オンライン速報版で公開された。

生命情報を担う重要な物質であるDNAは、放射線や紫外線、化学物質などの外的要因、ならびに細胞の代謝過程で発生する活性酸素などの内的要因の影響により損傷が生じ、それが細胞死や突然変異を誘発し、老化やがん化など引き起こすことが知られている。

今回、研究グループが同定したDNA修復タンパク質hEndoVは、従来、DNA損傷により生じたイノシンを持つDNAを修復することができると考えられてきた。これまでの研究では、イノシンは自然発生的に生じ、高頻度で突然変異を引き起し、同タンパク質を持たないマウスでは、高頻度にがんを発症することなども報告されている。

今回の研究では、hEndoVを精製し、その機能を詳細に解析。その結果、hEndoVはRNA編集により生じたRNA上のイノシンも切断し、その編集を失活させることが判明したという(切断活性)。i-RNaseと呼ばれるこの現象は、これまでRNA編集機能の中でその存在が予測されていたものの、未知のままであった。

また、RNA編集は、人間の脳内で頻繁に生じており、それが統合失調症やうつ病といった精神疾患と関わっている事がこれまでの研究から判明しているが、今回の研究の結果、同タンパク質がRNA編集されたRNAの運命を決定づける因子であることが示されたこととなった。

このため、研究グループでは、DNAの修復反応の破綻が細胞の突然変異を引き起こし、がん化の要因の1つとなる一方、RNA編集による遺伝子の生命情報の改変にも同じタンパク質hEndoVが機能していることは興味深いものであるとするほか、RNA編集が人の精神疾患との関わりが示唆されているため、i-RNase活性の研究が進むことで、精神疾患の治療開発につながることが期待されるとコメントしている。

hEndoVは、これまでの研究から発がんに関わるDNA修復に関与する事が示唆されていたが、今回の研究では、hEndoVにi-RNase活性を有していることが判明し、精神疾患に関わるRNA編集に関与している事も示された