ますます注目を浴び、無視できなくなった「ビッグデータ」。ソーシャルメディア時代のマーケティングリサーチにおいて、どんな意味を持っているのか、改めて確認します。

皆様こんにちは。アライドアーキテクツ株式会社 ソーシャルメディアマーケティング事業第一本部の藤田雅志です。

前回は「ソーシャルリサーチ」をテーマに、マーケティングの3局面の時代背景から、インターネットリサーチの有効性や課題をご説明しました。さらに、ソーシャルメディアや「ビッグデータ」と言われる時代背景にマッチしたリサーチ手法として「MROC」の成功事例などを紹介させて頂きました。

今回は、少し視点を変えて、昨今のマーケティングリサーチに欠かせない「ビッグデータ」とは何かを改めて振り返り、活用前のポイントについて解説します。

前回記事:「消費者の”本音”を引き出し”共創”する!ソーシャルメディアのリサーチ活用」
http://smmlab.aainc.co.jp/?p=23285

「ビッグデータ」と言っても…何のデータ?

ここ数年、マーケティングにおけるキーワードとしてよく「ビッグデータ」という言葉を耳にしますが、そもそも「ビッグデータ」ってなんだろう、とお考えの方も多いのではないでしょうか?

(ちなみに私は、最初は「ビッグデータ」のことを「ITベンダーがセールスキーワードをつくったな…」位にしか思っていませんでした(笑)。

それが間違いで、とんでもない価値があることだと気付いたのは、ディミトリ・マークス著の『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」‐ビッグデータからビジネス・チャンスをつかむ』を読んでからでした。)

総務省が公表している「平成24年版 情報通信白書」の「本編 第1部 第1節 (1)ビッグデータとは何か」によると、「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」というおおまかな定義があり、以下のような図解で解説されていました。

出展:総務省公表 平成24年版 情報通信白書より
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc121410.html

これらのさまざまなデータを、企業がどう活用しているから、価値があるのか。まずは事例をみてみましょう。

楽天

「楽天市場」「楽天トラベル」「楽天銀行」など、多様なビジネス・サービスをWeb上で展開している楽天では、2007年より「楽天スーパーDB」を構築。各サービスで得られた顧客プロファイルから次の4つを組み合わせた分析を行っています。

  • 基本属性(デモグラフィック:性、年齢、住居、職業、年収など)

  • 行動属性(ビヘイビア:購買履歴、サービス利用、頻度など)

  • 理的属性(サイコグラフィック:行動特性、嗜好性、ブランド、趣味、ライフイベントなど)

  • 地理情報(ジオグラフィック:人口統計、エリア特性など)

これにより、顧客をクラスタリングし、数百のクラスターを数十程度に集約します。

さらに各クラスター特性にマッチングしたコンテンツを分析する事で、各サービスの特性ごとにリコメンドロジックのカスタマイズが可能になり、表示させるバナー広告の適正化(コンテンツマッチング)やクロス・ユース(1人のユーザーが複数のサービスを利用)を誘導するなどの取り組みを行っています。

その結果、楽天系列サイトのクロス・ユース会員の割合が2007年の31.4%から2009年6月に38.2%に上昇したり、バナー広告のクリック率や購買率が数倍に上昇するなどの具体的な成果が出ているようです。

参照:
「楽天スーパーDB」のすごさがわかる! ビッグデータ活用を阻む「データ構造」と「消費者行動」の複雑さ
http://markezine.jp/article/detail/17490

楽天エンジニアが挑む、ビッグデータの分析・活用とは
http://next.rikunabi.com/tech/docs/ct_s03600.jsp?p=002049

総務省 平成24年版 情報通信白書
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc121410.html

カブドットコム証券

カブドットコム証券では2011年7月から11月まで、ソーシャルメディア上に投稿されるクチコミデータと株価変動との関連性を調査する実証実験を行いました。

この実証実験では、46社の銘柄に対して関連するキーワードを各社1000個程度、合計で約4300個に絞り込み、Twitter上から関連する情報を収集して相関分析を行っている。

処理の対象となるTwitterの情報は1日約900万行にも及び、2カ月間で2億件の情報に対して約4万3000件のマイニング処理が行われました。

まだサービスを提供する段階ではないようですが「ソーシャルメディア・センサー」と称して、サービス開発に取り組んでいます。

今後、対象銘柄の増加や分析精度をより向上させ、新たな投資情報提供サービスが期待されます。

参照:
競争優位を実現する、ビッグデータ活用事例
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/ActiveSP/20120720/410333/

総務省公表 平成24年版 情報通信白書
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc121410.html

参考:「ビッグデータ」とは?今知っておきたい旬キーワード!
http://smmlab.aainc.co.jp/?p=8630

データの中身と取得経路4つの分類

どんな業種でも先の図にある8種のデータや、2つの事例のようなあらゆるデータを持っている訳でもないと思います。ですが、マーケティング上「どんなデータを、どう取得するか」という観点では、以下の4つに括ると、身近なものに感じられるのではないでしょうか。

1) アンケートデータ

  • 郵送、電話、店舗などの収集したデータ
  • グループインタビュー等のヒアリング形式で取得したデータ
  • インターネットリサーチを活用したデータ
  • イベントやキャンペーン等で取得したデータ

2) リスニングデータ

  • ソーシャルメディアで投稿されるクチコミデータ
  • モバイルデバイスによる位置情報等のSNS活動データ

参考:ソーシャルリスニング」とは?~今さら人に聞けないマーケティング用語をおさらい!
http://smmlab.aainc.co.jp/?p=17067

3) 顧客行動データ

  • ECやブランドサイト等へのアクセスログ等の解析データ
  • ポイントカードやアプリでのクーポン発行等で取得できるデータ
  • 広告、メルマガ、競合サイト等のWeb履歴から取得できる導線データ

4) CRMデータ

  • POSやECや請求などの購買に関するデータ
  • カスタマーサポート(CS)デスクへの問合せデータ
  • 販売管理や営業支援システム(SFA)に残された営業活動データ
  • メールマガジンやDM等の反応データ

一口に「ビッグデータ」と言っても、このような種類、収集経路があるといえます。

またこれらのうちには、既に自社が取得したデータも多く含まれていませんか?

つまり、「ビッグデータ」を上手く利用したマーケティング環境づくりに取り組む際には、既に自社が保有しているデータ、マーケティングリサーチ戦略に合わせてこれから必要になるデータをまず精査する必要があります。

活用前の注意点

以上、「ビッグデータ」を上手く利用している事例から、データの中身を整理してみてきましたが、「ビッグデータ」をマーケティングリサーチで扱うことを検討する際に留意しておきたいポイントがあります。

Point1:情報資産のデザイン力

現在企業内にあるデータ(情報資産)を体系的に整理し、どのデータとどのデータを組み合わせると、どんな示唆が得られるのかをデザインする。

Point2:「感覚」と異なる結果が得られた時のノイズ抵抗感(を納得させるプレゼン力)

成功体験を積んでいる人(つまり、組織の上位役職者)は過去の成功体験から感覚的にマーケットを知っている、と思っていますが、時として、その感覚値と異なる結果が得られる時がある。マーケティング担当者は、その抵抗感を感じさせないプレゼンテーションが必要になる(場面がある)。

Point3:マーケティング施策の最適化意思決定力

予算には限界がある。最終的には限られた予算を適正に配分しマーケティング施策を実行する事になる。意思決定には組織のパワーバランスが働くことが往々にしてあるので、データ(から得られた仮説)に基づく合理的な意思決定が必要になる。

これらを踏まえ、取得した「ビッグデータ」をどう組み合わせて、自社に有益なようにどう活用するかについては、また別の機会にご説明したいと思います。

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