東京大学数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)は8月6日、米プリンストン大学、国立天文台と共同で、本格的な観測が始まったすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム:HSC)」の116素子、計8億7000万画素のCCDで取得される膨大な画像データを処理するためのソフトウェア「HSCデータ解析パイプライン」を開発し、HSCファーストライトとしてすでに公開済みのアンドロメダ銀河M31の画像をそのソフトウェアを用いて新たに処理して公開した(画像1)。成果は、カブリIPMUの安田直樹教授らの開発チームによるもの。
HSCのファーストライトで撮影されたM31の画像は、7月31日に国立天文台が公開済みだ(記事はコチラ)。多くの人が、満月約9個分という視野がまさに「異次元」ともいうべき広さで、なおかつ精細さも併せ持っており、驚異的ということを実感したことだろう。先代の「Suprime-Cam」と比較しても桁違いに広すぎて、何度も分割して撮影した画像をつなぎ合わせたのではないかと疑ってしまうほどである(もちろん、そのようなことはない)。
7月31日版のM31でも驚かされたが、カブリIPMUが今回公開したM31は、格段にきれいになっているのが一目でわかるのが大きなポイントだ。7月31日版M31も、拡大するととても精細で星の1つ1つがわかるのだが、縮小すると少々地味な感じである。ところが、今回のM31は縮小した画像でも明るく、SVGAぐらいのサイズ以上で見ると、これぞまさに「銀河」という美しさというものになっている。
7月31日版の画像処理には今回のHSCデータ解析パイプラインの一部も利用されているそうだが、公開するために時間優先の別のソフトが使われており、そのため今回とは同じデータを使いながらも画像の雰囲気がガラリと異なっているというわけだ。
このM31の画像を作成するためのデータは、gバンド、rバンド、iバンドと呼ばれる3種類のフィルタを使ってそれぞれ10分、12分、16分の露出時間で撮影され、各バンドのデータを順に青、緑、赤に割り当ててカラー画像化がなされたものだ。視野の端の部分で色が変わって見える部分があるのは(左下や右下の緑、右上の紫)、観測された領域が3つのバンドで完全には一致していないためである。
また、銀河の中心部などでは、光が強すぎるために検出器のCCDが飽和している(いわゆるとんでいる状態)のだが、実際の科学的研究ではこのような部分は利用されないのだそうだ。ちなみに銀河の中心部の広範囲にわたってCCDが飽和している部分は、今回の画像公開にあたって見やすさのため画像が加工されているという(それも7月31日版M31と見た目の雰囲気が異なっている理由の1つ)。画像3~5はそれぞれ2倍、8倍、32倍にズームしたもので、画像6は壁紙風に整えたもの。MacOS Xの壁紙風ということだが、Windowsで利用しても何の問題もない。
画像5。32倍ズーム画像。星々の1つずつがわかる。(c) HSC Collaboration/カブリIPMU |
画像6。MacOS Xの壁紙風に処理したもの。(c) HSC Collaboration/カブリIPMU |
また、Adobe Flash PlayerのWebブラウザへのインストールが必要だが、コチラはマウス操作によりM31のズームや視野の移動などを行えるページとなっている。M31を最大ズームすると、230万光年彼方の星々を1つずつ見られることがわかるはずだ。
HSCデータ処理責任者としてデータ解析ソフトウェアの開発チームを率いているカブリIPMUの安田直樹教授は、「HSCが世界最高レベルの"広視野高解像度カメラ"であることは間違いのないところですが、世界最高の研究成果を上げるためには、得られるデータを適切に扱い、短時間に最大限の情報を引き出す必要があります。そのために、我々はHSCデータ解析パイプラインの開発に取り組んできました。今回、HSCのファーストライトデータを用いて、パイプラインの機能、性能を確認することができました。今後、さらに性能アップを図っていく予定です」とコメントしている。
なおHSCは、国立天文台、東大(カブリIPMU、理学系研究科)、高エネルギー加速器研究機構、台湾・中央研究院 天文及天文物理研究所、プリンストン大が共同で開発中だ。