全メディア人よ、来たるべき“メディア新世界“に備えよ~『5年後、メディアは稼げるか』を読んで

*本記事は「クリエイティブビジネス論」からの寄稿記事です。

8月にあるローカル局さんで社内レクチャーをすることになった。いいですとも!と引き受けたもののどんな内容にすればいいかと悩んでいたら、ちょうど参考になりそうな本が出たので即アマゾンでポチッとした。それがこの本。東洋経済新報社『5年後、メディアは稼げるか』。皆さん知ってる?

5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die? 佐々木 紀彦 (著) 出版社: 東洋経済新報社 (2013/7/19)

著者は佐々木紀彦氏で、東洋経済オンラインの編集長だ。老舗ビジネス誌のオンラインメディアの編集長と言われると、40代後半くらいのベテラン編集者をイメージするが、佐々木氏は1979年生まれだから30代前半だ。意外だなあ。

東洋経済オンラインは最近大幅にリニューアルし、急速にPV数を伸ばしたと、ちょっとした話題になった。その改革の首謀者こそ、佐々木氏なのだ。つまり、老舗ビジネス誌のオンラインメディアをビジネス的に成功に導いた。その佐々木氏がメディアの将来像を語る本らしい。

しかもタイトルが「稼げるか」というのも生々しくて興味が湧く。サブタイトルには「Monetize or Die」とある。稼げるようにならなきゃ死ぬぜ、という脅し文句つきだ。いよいよもってワクワクしてくるね。

興味ワクワクのまま読み進んだらぐいぐい引き込まれてあっという間に読んじゃった。読後も興奮しっぱなしなので、その勢いでブログに書こうと思う。

さてこの本、基本的には紙メディアの話だ。なーんだ、新聞や雑誌の話か。このブログの読者の方はそう聞くとがっかりしちゃうかな。だってぼくは主にテレビについて書いてるからね。でも、この本は確かに紙メディアについてだけど、書いてあることはかなーり、8割9割くらい、テレビメディアにも当てはめることができる。

紙メディア中心とは言え、すべてのメディアに応用が利くし、広告業界にとっても参照可能な話だらけだったりする。だから皆さんぜひ読んでみて。

この本のキーワードがこの「メディア新世界」だ。佐々木氏は今後の5年間で紙メディア、とくに雑誌メディアは激変にさらされると言う。その後にやって来るのが「メディア新世界」というわけ。

序章でまず、メディア新世界で7つの変化が起こると言っている。

書きだしてみると・・・
・紙が主役→デジタルが主役
・文系人材の独壇場→理系人材も参入
・コンテンツが王様→コンテンツとデータが王様
・個人より会社→会社より個人
・平等主義+年功序列→競争主義+待遇はバラバラ
・書き手はジャーナリストのみ→読者も企業もみなが筆者
・編集とビジネスの分離→編集とビジネスの融合

・・・どうすか?これだけですでに面白そうでしょ?

読み進むに連れて、どうやらメディアビジネスのひとつの解が、いわゆるフリーミアムにありそうだな、ということが見えてくる。もちろん、多様な可能性を紹介しているのだが、とくにアメリカでの成功事例などを知ると、最初は無料で深いとこは有料、というフリーミアムが大きな選択肢なのだなあと思えてくる。

同時にこの本には全編に渡って強烈なメッセージが込められている。それは、「皆さん、これまでのやり方考え方をばっさり捨てましょう!」ということ。しかもそれは、若い世代からベテラン層への「おっさんら、いつまでしがみついとるんや」という上から目線のものではなく、「ぼくもこれまで信じてきたものをいったん捨てなきゃと思ったんすよ!」と、仲間たちに呼びかけているスタンスだ。

メディアはこれから、どう稼げばいいのか。新聞雑誌のみならず、テレビやラジオも、そしてネット上での新しいメディア、例えばハフィントンポストのようなメディアでさえも、モデルがはっきり見えているわけではないだろう。この本はそんな思いのメディア人たちに、常識を捨てよと痛烈に呼びかけながら、具体的なヒントをわかりやすく整理して提示している。うん、みんな、読んだ方がいいと思うな。ちなみにぼくも、そのローカル局で話すことが少し見えてきたよ。

さて、この本のいちばん大事なところは第3章の「ウェブメディアでどう稼ぐか」の部分。これはホントにローカル局さんでのお話に使わせてもらいたい箇所が満載。

この本で言う“メディア”は基本的に新聞雑誌、つまり紙メディアのことだ。でも、読めば読むほどテレビメディアにも応用できる内容だ。それは要するに、新聞雑誌もテレビも、ウェブメディアになっていくから、「ウェブメディアでどう稼ぐか」が同じように参考になるということだ。この”みんなウェブメディアになっていくから”ってところはまた別の機会にじっくり書くので、ちょっと待っててね。

その最重要な第3章の見出しだけでもここでネタバレしてしまおう。

それに、紙特有の言い方を他のメディアの言葉に書き換えれば、すべてのメディアに、あるいは広告業界全体に、そのまま当てはまる。しかも、ベテランほど耳が痛い内容だ。

「番組の作り手はプロのテレビマンのみ→視聴者も企業もみなが作り手」なーんてね。ホントに当てはまる。もっとディテールに絞ってもいいかも。「ビジュアルを扱うのはデザイナーのみ→受け手も企業もみながデザイナー」なんてことは、すでにあちこちで起こりはじめているよね。

そんな序章の後につづく内容は、ひとつひとつ具体的だ。佐々木氏が紙メディアからネットメディアに移ってからの体験や、アメリカでの先行的事例など、実際のことが詳しく書いてあるのでわかりやすいのだ。

どうすか?この大サービスな感じ!そそられるだろう?

この見出しをざっと見るだけでも、なんだか役立ちそう。ものすごく具体的なので、ページをめくるたびに、うんうん!そうですか!と感心したりメモりたくなったりする。

さらにさらに!現状のメディア企業のマネタイズの手法は8通りあるという。1 広告、2 有料課金、3 イベント、4 ゲーム、5 物販、6 データ販売、7 教育、8 マーケティング支援。これはそれぞれ、世界のどこかのメディアが実際にやっているのだそうだ。

そしてこの中で、現時点で柱となっているの1 広告と2 有料課金だということで、そのあとはこの2つの話になっていく。

結論的には広告と有料課金をうまく組合せようぜ、ということになっていく。広告はマネタイズしやすいが、それで利益が実現できるかはかなり難しい。莫大なPV数を獲得できないと十分な広告費も得られないからだ。これが実現できるのは、日本ではYahoo!ぐらいだろう。

そこで有料課金との組合せになる。これも簡単ではない。読者層はどんな層かとか、メディアとしてのブランド力とかをクリアしないといけない。

とは言え基本的にこの本は、メディアは広告+課金のフリーミアムモデルでやっていくのだと言っているようだ。さらに、上記の3~8の手法も含めて多様なマネタイズを組合せようということ。そのヒントこそが、ネット企業にあるのだと言っている。

ここからはぼくの解釈だけど、つまりすべてのメディアはこれまで培ってきたマネタイズ手法をもう一度見直さねばならないということだろう。メディア企業はこれまで、できるだけたくさんの読者もしくは視聴者を獲得し、購読料と広告費を稼いできた。電波媒体の場合は広告費だけだ。いずれにせよ、できるだけ数を獲得する必要があった。

でももう数は増えない。問題はようするにそこに尽きるのかもしれない。

数が増えなくても、これまでの数百万、数千万人という単位が数万人になってもメディアを運営できる手法を、広告にしても購読料にしても、考え直さねばならないのだ。

ぼくがソーシャルテレビについて懸命に語るのも、ソーシャルの力を得ることで、これまでとちがう広告メニューや、新たな課金の手段が開発できる可能性があると思うからだ。ネットへの取り組み、ソーシャルの研究を、メディア企業の保守的な人びとは、自分たちの権益を脅かすように受けとめる傾向があるのだが、そうではなく、これから生き残るために、ひいては新たな成長を目指すために、ソーシャルを取り込もうということなのだ。

話が本からそれたので、もう一度内容について書くと、この第3章で「ブランドコンテンツという新しいマーケット」という項目がある。ここは、いまもっとも考えるべき分野だと思う。いまギョーカイ一部で話題になっているAdvertimesでの谷口マサト氏の連載はこのブランドコンテンツに近い話だ。彼の仕事に「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」という記事があってとりあえず読み物として面白い。これが映画「ライフ・オブ・パイ」の広告として制作されているのだ。もちろんステマではなく最初から広告だとして書かれている。

またコカ・コーラ社が自社サイトを大幅にリニューアルしその中に“ストーリー”というコーナーが誕生した。コカ・コーラについて、プロの編集者や学者が内容の濃い記事を書いているのだ。これもブランドコンテンツの一蹴だろう。

ブランドコンテンツの考え方は、ある意味これまでのメディアビジネスにはない発想でできている。コンテンツはメディアがスポンサーとは独立して制作されて読者(視聴者)はそれを楽しむ。広告はそうしたコンテンツの間に差し込まれ読者(視聴者)はそれを“目にする“ものだった。

ブランドコンテンツは、広告だとわかっていつつも、記事として読まれる。記事としての面白さが問われる広告だ。

ここまで考えた時、ぼくは、おやー?と思った。80年代、ぼくがコピーライターになった頃にあった一部の広告は、ブランドコンテンツ的だった気がする。西武百貨店の企業広告は糸井重里さんがひとつひとつ書いた、社会に問いかける内容だった。「おいしい生活」のような派手なキャンペーンもそうだが、新聞広告シリーズの中で丁寧に書かれたメッセージは、売らんかなのものではなく、独立したコンテンツとして楽しめた。

もっと商品寄りでも、仲畑貴志さんがサントリーの角で書いていたコピーは面白い読み物だった。その上ちゃんと角が飲みたくなるのだ。

なにかこう、ブーメランのように一度遠くに行って戻ってきてるような気がする。もちろんここで言うブランドコンテンツは80年代の広告と同じものというわけにはいかないだろう。でも大いなるヒントがそこにあるのはまちがいないだろう。

メディアの未来は、ウェブに習うとかソーシャルだとか言うと、よくわからない、数値的なものに捉えがちだが、もっと素朴なことなのかもしれない。ぼくたちがたどってきたアナログな時代の道筋にこそヒントがあるかもしれないと思うと、また面白くなってきたじゃないか。

<ライター紹介>

境 治 (Osamu Sakai)
メディア・ストラテジスト。1987年、東京大学を卒業し、広告代理店I&S(現ISBBDO)に入社してコピーライターとなる。92年、TCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞を受賞。93年からフリーランスとなりテレビCMからポスターまで幅広く広告制作に携わる。
06年、映像制作会社ロボットに経営企画室長として入社。11年7月からは株式会社ビデオプロモーションでコミュニケーションデザイン室長。この7月から再びフリーランスで活動。

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