アクセンチュアは7月31日、日本企業の海外進出に関する調査を行い、その結果を発表した。この調査は、2012年7月に、日本、ASEAN、中国大陸、香港、台湾、インド、韓国のアジアを拠点とする企業の249名の経営幹部を対象に調査を実施したもの(日本は50名)。いずれも収益が2億5,000万米ドルを超える企業で、回答者のうち168名は国内本社勤務で、81名は海外で現地市場のオペレーションに携わっている。
それによると、過去3年の海外市場での収益や利益が、期待通りだったと回答した日本の企業は全体のわずか12%で、他のアジア諸国と比較しても低い結果となったという。
ただ、こうした結果にも関わらず、日本企業の90%は今後も海外市場への展開を継続すると答えており、そのうち28%は積極的な拡大計画を掲げているという。同社によれば、日本は常にアジア最大の対外投資国で、2003-2011年におけるアジア対外投資の40%をしめるという。
また、現在は日本企業の約半数がグローバル市場における拡大戦略として北米市場を重視しながらも、この割合は2015年には22%に減ることも分かり、同様に、西欧の市場をターゲットとする企業の割合も、2015年には現在の28%から10%へ縮小が予想されており、今後、多くの日本企業は急激な人口増加と消費拡大、域内投資額の大幅な伸長によって大きな成長が期待できる新興国を進出先ターゲットにしているという。
こうした中、新興国を中心に多様化するグローバル市場において、多くの日本企業は顧客のニーズを的確に把握し、自社の製品・サービスを差別化できていないことが最大の課題だという。
さらに、日本企業は、適切な海外スタッフの維持、文化的問題への対応、リーダー陣へのグローバルなマインドセットの浸透など、人材や組織に関する課題も抱えてているという。
アクセンチュア 経営コンサルティング本部 統括本部長 ジェフリー・ベッグ氏は「トヨタ自動車やソニーなどが海外進出を図った第1波に比べ、この20年で世界はさらに複雑になっており、多国籍企業が台頭し厳しい競争環境になっている。サプライチェーンが大きな課題だ」と指摘した。
これらの課題に対して同社は、日本企業がグローバル市場で成功するためには、「海外展開のための明確な戦略の構築」、「競争市場で確実に成功するための"差別化"の実現」、「伸縮可能なグローバル・オペレーティング基盤の構築」、「成長のための人材、リーダーシップとカルチャーの導入」の4つに焦点を当てる必要があるとした。
「海外展開のための明確な戦略の構築」では、自社にとって最も重要な市場を特定し、海外市場展開の計画を企業全体の成長戦略と一致させていくことが重要だという。また、地元企業を合併・買収(M&A)するのか、グリーンフィールド投資を行うのかといった参入の方法を決めることも必要になるという。
アクセンチュア 経営コンサルティング本部 セールス&マーケティンググループ統括 マネジング・ディレクター 石川雅崇氏は、日本企業がグローバル市場に参入する際には、M&Aを使うケースが増えているが、買収される側の企業とは戦略も企業文化も違うので、明確なゴールとロードマップを買収企業と共有する必要があると指摘した。
また同氏は、現地顧客の嗜好の把握については、トライ&エラーを繰り返していく必要があるとした。
「競争市場で確実に成功するための"差別化"の実現」では、日本企業は先進国や新興国などの進出先市場において、ソーシャルメディアなどを活用して、多様化する顧客のニーズや嗜好を適確に把握し、製品・サービスで差別化を図ることが重要だという。
石川氏は、市場のステージは、その製品によって得られる機能・便益を求める「機能訴求モデル」から、その製品を持つこと自体に価値を見出す「ブランド訴求モデル」に変化し、最終的に高機能・高品質の製品を求めるようになる「ストーリー訴求モデル」になるという。そのため、市場の成長ステージによって、顧客から求められる価値も変わってくるため、顧客を理解し、成長ステージに合わせた価値訴求が重要だという。 石川氏は、最近は、市場の成長スピードが早く、3年以内に「ストーリー訴求モデル」に変化するとした。実際にインドでは、 高機能・高品質の製品を求める中間層が急激に増え、日本企業との親和性が高まっているという。
「伸縮可能なグローバル・オペレーティング基盤の構築」では、自社の組織、プロセス、テクノロジー、人材など、本社と海外事業部のオペレーションをバリューチェーン全体にわたってつなぎ、海外市場でビジネスを展開するための土台を構築しなくてはならないとしている。
P&Gでは、当初、地域ごとに異なるデザインを採用し、バラバラのWebコンテンツとなっていたが、現在では、一環したブランドイメージ、、統一されたWebコンテンツ戦略をとっているという。
そして、「成長のための人材、リーダーシップとカルチャーの導入」では、グローバルなマインドセットを持つ強力なリーダーシップと、意思決定の権限を持つ現地のリーダーシップを活用しなくてはならず、現地の決定権を強めていくことが重要になるとしている。
ジェフリー・ベッグ氏は、現地スタッフを本国で3年程度じっくり教育し、本社のやりかたや身につけさせてから、現地にリーダーとして派遣するという韓国企業の成功例を紹介した。
なお、アクセンチュアは、これらの戦略を支援するため、全世界54カ国200都市以上に拠点を展開するグローバルのネットワークと、あらゆる業界や業務に対応できる能力や知見を活かして、新たな市場への参入から確実なグローバルオペレーションの実現まで包括的に日本企業のグローバル化を支援しているという。