東北大学は7月26日、太陽電池用Si結晶基板の品質と太陽電池特性を数秒~数分で判定できる評価方法を開発したと発表した。
同成果は、同大 金属材料研究所の藩伍根博士らによるもの。詳細は、「Applied Physics Letters」に掲載される予定。
現在、太陽電池用Si結晶基板の出荷検査や受け入れ検査などでは、少数キャリアのライフタイムを測定する反射マイクロ波光導電減衰法(μ-PCD)や、少数キャリアの拡散長を測定する表面光起電力法(Surface Photovoltage:SPV)が品質評価方法として用いられている。しかし、Si結晶基板中には、空間的に、転位、空孔クラスタ、不純物、不純物クラスタ、結晶粒界、応力などの欠陥が不均一に分布しているため、μ-PCD法やSPV法で少数キャリアのライフタイム値や拡散長値を基板全体に対して測定すると、それらの値が基板内でばらついてしまい、測定値の平均値あるいは最大値(もしくは最小値)と、太陽電池のエネルギー変換効率の相関が得られないという問題があった。例えば、ライフタイム値や拡散長値の平均値あるいは最大値(または最小値)が大きくても、太陽電池のエネルギー変換効率が低い場合や、逆に、それらの値が小さくても太陽電池のエネルギー変換効率が高くなることがあるという。このため、Si結晶基板の太陽電池特性を正確に知るには、太陽電池を製造してエネルギー変換効率を測定するしか方法がなかった。これを解決するために、Si結晶基板の品質評価値から、結晶品質と太陽電池のエネルギー変換効率を瞬時に判定できる結晶品質評価方法の開発が強く求められていた。
今回、研究グループでは、太陽電池用Si結晶基板の新しい結晶品質評価方法として、電流変調四探針抵抗率測定法(Current-Modulating Four-Point-Probe(CMR) Method)を開発した。一般的に、四探針抵抗率測定法は、Si結晶の抵抗率ρ[Ω・cm]を測定するために用いられているが、同方法は、四探針抵抗率測定装置を応用してSi結晶基板の品質を瞬時に評価できるようにした。具体的には、両端探針間に連続的に電流量を変化させた変調電流を流す。この注入する電流量を変化させることにより、太陽電池の変換効率に影響を及ぼすSi結晶基板内のあらゆる不均質性(様々な欠陥および不純物の空間分布)に起因して、両端探針間の電力線の密度変化、または、その対称性・非対称性が発生するため、太陽電池のエネルギー変換効率に寄与する実効抵抗値(実効少数キャリアの数)を求めることができるという。
CMR法によりSi結晶基板を測定すると、横軸に変調電流量、縦軸に抵抗値、もしくは抵抗率を表すグラフが作成できる。CMRパターンを描いた際に、抵抗値が一定の値に飽和する電流の範囲(Ith-Is:結晶品質パラメータ)が得られ、これがSi結晶基板の品質を決める値となる。例えば、図2のように、基板内の不均質性が大きいSi多結晶基板(Extreme nonuniform MC-Si)では、CMRパターンから得られる結晶品質パラメータは小さくなり、品質が悪いことがわかる。一方、基板内の不均質性が小さなSi単結晶基板(CZ-Si)では、CMRパターンから得られる結晶品質パラメータは大きくなり、品質が良いことがわかる。
図3は、横軸に結晶品質パラメータをとり、縦軸に太陽電池のエネルギー変換効率(実測値)をとってプロットしたグラフ。結晶品質パラメータが大きなSi結晶基板ほど、太陽電池のエネルギー変換効率が高くなっており、結晶品質パラメータとエネルギー変換効率の間に相関が得られることがわかる。
このように、CMR法は測定装置コストが低く抑えられ、簡便な方法でSi結晶基板の品質評価が可能な他、結晶品質パラメータを測定すれば、太陽電池を製造しなくても太陽電池のエネルギー変換効率を予測することが可能となる。また、CMR法はSi結晶基板以外にも、他の太陽電池用結晶材料基板、アモルファス基板、ドット型基板、ナノワイヤ型基板へも幅広く転用可能と考えられる。
同方法は、品質評価値から太陽電池のエネルギー変換効率の予測が可能であるため、太陽電池産業界への広範な用途が考えられる。今後は、実用サイズ基板の評価に最適な、四探針プローブの開発、変調電流および測定電圧の高精度化を進め、実用化を加速させるとコメントしている。