国立天文台は7月25日、建設中ながらすでに初期科学観測がスタートしているチリのアルマ(ALMA)望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)を用いて、米国の研究者を中心とする研究チームが「爆発的星形成銀河(スターバースト銀河)」の1つである「NGC253」を詳しく観測した結果、爆発的な星の形成活動によってガスが銀河の外にまで吹き飛ばされることが判明し、スターバースト銀河は自らの活動によって活動に幕を引いていることが明らかになったと発表した。

成果は、米国メリーランド大学のアルベルト・ボラット氏らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、7月25日付けで英科学誌「Nature」に掲載された。

非常に激しい勢いで星を作っているスターバースト銀河では、比較的短期間に猛烈な勢いで星を作った後、突然星形成が終わってしまうことがこれまでの研究でわかっていた。ただし、どのようにして星形成が終わるのか、観測的にははっきりとしていなかったのである。

NGC253は、ちょうこくしつ座の方向1150万光年の距離に位置しており、「ちょうこくしつ座銀河」とも呼ばれる(画像1)。天の川銀河に比較的近い位置にあることから、スターバースト銀河の中ではよく観測対象として選ばれる銀河だ。

画像1。欧州南天天文台VISTA望遠鏡でとらえたNGC253(左)と、その中心部から流れ出すガスをアルマ望遠鏡でとらえた画像(右)。(c) ESO/ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/J. Emerson/VISTA Acknowledgment:Cambridge Astronomical Survey Unit

研究チームは、このNGC253の中心部分周囲にある一酸化炭素分子ガスが放つ電波を観測したところ、ガスが銀河の外に激しく吹き飛ばされている様子が発見されたのである。ガスが流れ出す速度は時速15万kmから90万kmにおよぶことも判明。そして、銀河中心から約1500光年のところにまで到達していることも明らかになった。研究者たちの計算によると、この銀河からは毎年太陽10個分かそれ以上の勢いでガスを放出していることになるという。このペースでガスの流出が続くと、星の材料になるガスはわずか6000万年で枯渇することになるとした。

アルマ望遠鏡がとらえた、NGC253中心部から流れ出るガスの分布が画像2だ。色は一酸化炭素が放つ電波の強度を表す(紫が電波が強い領域、赤が電波が弱い領域)。星印の部分に巨大な若い星団があり、周囲のガスを矢印の方向に押し出していると考えられている。破線のU字型は、X線で観測された高温低密度のガスの流れの輪郭を示す。

画像2。アルマ望遠鏡がとらえた、NGC253中心部から流れ出るガスの分布。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), Alberto Bolatto, Univ. Maryland

「アルマ望遠鏡の素晴らしい解像度と感度のおかげで、冷たい分子ガスが銀河の外に押し出されている様子を初めて、はっきりととらえることができました。さらに、銀河から吹き出しているガスの質量は、銀河が取り込むガスの質量よりも大きいと見積もることができました。宇宙初期に銀河が活発に星を作っていた頃には、このような現象は至る所で見られたことでしょう」と、この研究チームを率いるボラット氏は語っている。

今回の発見は、観測される超大質量銀河の個数がシミュレーションの予測よりも少ないという問題を解決する糸口となるかも知れないという。観測と理論計算の食い違いを説明するためには、いくつかの可能性がある。

その中の1つは、銀河の中心にある超巨大ブラックホールにガスが吸い込まれている、という考え方だ。この場合、ブラックホールに近づいたガスは超高温に熱せられ、その一部が猛烈な勢いのジェットとなってブラックホールから弾き飛ばされる。しかし、NGC253ではこうしたジェットは観測されていない。つまりブラックホールによって星の材料が失われているとは考えられないのである。

他には、星の材料になるガスが星形成活動に関連してガスが失われている、という可能性だ。しかし、これまでの観測では解像度や感度が不十分であったため、銀河から流れ出すガスやそれが次の世代の星形成にどのような影響があるかを明らかにすることができていなかった。

星が生まれる時、特に太陽の数倍以上の質量を持つ星が生まれている時には、周囲に破壊的な影響を与える。星が輝いている間は、星から噴き出す粒子や光の圧力によって周囲のガスが押し広げられ、もしその星が太陽の10倍以上の重さの場合には、星が死ぬ時に超新星爆発を起こし、周囲のガスをさらに外側に押しやるという具合だ。NGC253では、数100個、あるいは数1000個にもおよぶ大質量星が狭い範囲に密集している。重い星によってガスが銀河の外に押し出されていると考えられるとした。

「アルマ望遠鏡は、銀河から流れ出すガスの研究において非常に強力な道具になります。このガスの流出は、信じられないほど甚大な影響を銀河におよぼし、星の材料を銀河から奪ってしまうでしょう」と、研究チームの一員であるメリーランド大のシルバン・ベイユー氏は語る。

過去に行われたX線による観測から、NGC253の星形成領域から高温の電離水素ガスが流れ出していることはわかっていた。しかしこのガスはとても希薄なものであるため、銀河の中の星形成活動にはほとんど影響を与えない。アルマ望遠鏡で得られたデータによると、それよりもずっと高密度なガスが星形成活動によって銀河の外に押し出され、高温ガスと一緒にさらに遠くに飛ばされていると考えられるという。

画像3は、アルマ望遠鏡の観測結果を基にした、NGC253の中心部から流れ出す分子ガスの3Dモデル。色は一酸化炭素の電波強度を示し、ピンク色が最も電波が強く、赤色が最も弱いことを表している。

画像3。アルマ望遠鏡の観測結果を基にした、NGC253の中心部から流れ出す分子ガスの3Dモデル。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/Erik Rosolowsky

また、共同研究者である独マックスプランク天文学研究所のファビアン・ウォルター氏は、「アルマ望遠鏡で観測された高密度ガスは、X線で見つかった高温の電離ガスに沿うように分布しています。今回の観測で、爆発的星形成の現場、そこから押し出される高密度ガス、そしてさらに遠くに吹き飛ばされていく高温電離ガスという1つながりの流れを明らかにすることができました」と述べている。

そして研究チームの一員である米国立電波天文台のアダム・リロイ氏も、「アルマ望遠鏡の最高性能を活かした観測ができれば、流れ出したガスがその後どうなるのかも明らかにすることができるでしょう。流れ出したガスが再び銀河に戻って「リサイクル」されるのか、あるいは完全に星の材料が失われてしまうのかを観測的に調べることが、今後の課題です」と今後の観測に期待を寄せるコメントをしている。