ライオンは7月18日、衣類の"仕上げ処理"において布製品に付着したウイルスに対し不活化効果を発揮する技術として、カチオン界面活性剤の塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(炭素鎖長10:DDAC)と特定のアミノカルボン酸系キレート剤とを併用することで、ノロウイルスの代替として研究などに用いられるネコカリシウイルスに対し、高い不活化効果を発揮することを見出したと発表した。

同成果は同社ファブリックケア研究所と日本大学生産工学部環境安全工学科の神野英毅教授らによるもの。詳細は9月10日~11日に開催される「日本防菌防黴学会 第40回年次大会」にて発表される予定だ。

新型ウイルスやノロウイルス、風疹などの流行対策として、うがいや手洗いのほか、最近ではタオルの共用を避けることなどが勧められるようになってきており、布製品に付着したウイルスにどう対処するか、ということも注目されるようになってきた。

そうした背景から研究チームは今回、衣類や布製品に付着するウイルスを"洗濯"やスプレーなどによる衣類の"仕上げ処理"において不活化する技術の開発を行ってきた。

これまでの研究からは、衣料用洗剤や漂白剤に使用されている漂白活性化剤「ラウロイルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム(OBS-12)」が洗濯液中に生成する有機過酸には、衣類の漂白効果に加え、殺菌や殺ダニ効果があることを報告してきたほか、ノロウイルスの代替ウイルスとして試験などに一般的に用いられるネコカリシウイルスにも高い不活化効果を示すことを確認したことや、タオルや衣類などに汚れがついた場合の洗濯を想定したタンパク汚れの代替成分(ウマ血清)を添加した状態での評価において、OBS-12(38ppm)と同濃度の塩素濃度を示す次亜塩素酸ナトリウムとの比較で、OBS-12が高いウイルス不活化効果を維持することなどを報告していた。

漂白活性化剤OBS-12のネコカリシウイルス不活化効果

汚れ成分を共存させた場合の漂白活性化剤OBS-12と次亜塩素酸ナトリウムのネコカリシウイルス不活化効果

今回の研究では、スプレーなどによる衣類の"仕上げ処理"においてウイルスを不活化するための技術開発が進められた。具体的には、衣類用仕上げ剤に広く用いられているカチオン界面活性剤に着目し、さまざまな分子構造についてネコカリシウイルスに対する不活化効果を検討を行ったところ、最終的にDDACが高い効果を示すことを確認したという。

この結果について研究チームは、DDACの親水性と疎水性のバランスがウイルス表面のタンパク質に作用しやすいためと推測されるとコメントしている。

また、不活化効果の向上を目指し、ウイルス表面のカルシウムがカチオン界面活性剤の効果を阻害しているとの仮説を立て、カルシウム捕捉作用を有するキレート剤の添加による影響についても評価。その結果、特定のアミノカルボン酸系キレート剤にカチオン界面活性剤の効果を向上させる機能があることも確認したという。

DDACのネコカリシウイルス不活化効果における特定のアミノカルボン酸系キレート剤の増強効果

今回の成果について研究グループは、カチオン界面活性剤DDACと特定のアミノカルボン酸系キレート剤を組み合わせた"仕上げ処理"を行うことで、毎回は洗うことができないアウターや布製品などに付着したウイルスに対しても不活化効果が期待できるようになるとの考えを示しており、今後、今回の知見を活かして、衣類ケア分野におけるウイルス対策製品の開発を進めていく予定としている。