東京大学(東大)は、酸素を使って脂肪や糖質を燃やす有酸素運動において、筋肉を動かすためのエネルギーをミトコンドリアがどのようにして生み出しているのかについて調査し、効率的な呼吸反応(呼吸鎖)を実現するために必要なタンパク質「COX7RP」を発見したと発表した。
同成果は東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター抗加齢医学講座の井上聡 特任教授、埼玉医科大学ゲノム医学研究センターの池田和博 講師らによるもの。詳細は7月16日に英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。
細胞内小器官であるミトコンドリアは、内膜上に存在する5つの呼吸鎖複合体(複合体I~V)を用いた酸素呼吸反応により、呼吸で取り込んだ酸素を消費しつつ、生命活動に必要なエネルギーを保存し利用する際に必要なアデノシン三リン酸(ATP)の合成を行っている。
近年の研究から、それら5つの呼吸鎖複合体は、単独で膜上に存在するのではなく、複合体同士の結合により形成される「スーパー複合体」として存在し、効率的に酸素呼吸を行っていることが分かってきた。しかし、これまでスーパー複合体の形成を制御する因子についてはほとんど知られておらず、今回の研究では、その仕組み解明に向けた取り組みが行われた。
具体的には、性ホルモン応答遺伝子であるCOX7RPの発現を消失させたマウス(COX7RPノックアウトマウス)を作製して調べたところ、胎仔線維芽細胞において複合体IVである「シトクロムc オキシダーゼ(COX)」の酵素活性が低下し、複合体VにおけるATPの産生も抑制されることを確認したほか、COX7RPノックアウトマウスでは、骨格筋でのCOX活性の低下とともにトレッドミル(ベルト式強制走行装置)を用いた運動持続時間が短縮し、早く疲労を呈することが判明したという。
また、COX7RPノックアウトマウスでは、熱の産生に重要な褐色脂肪細胞が過剰に脂肪を蓄積して機能低下を示し、寒冷における発熱が不十分となり、低体温症になりやすいことも判明した。
一方、COX7RPを過剰発現するマウスを作製して調べたところ、トレッドミルでの運動持続能が亢進してマラソンランナー型の特徴をもつようになり、寒冷の環境にあってもCOX7RPノックアウトマウスで見られたような低体温症を防ぐことが可能であることが判明したという。
これらの結果を受けて、COX7RPの細胞内作用メカニズムを解析したところ、COX7RPがミトコンドリアの呼吸鎖複合体IIIとIVをIに結び付けてスーパー複合体形成を促進する分子であることを突き止めたという。
ミトコンドリアは様々な生命現象に関わる細胞内小器官であり、その機能破綻はがんや糖尿病といった様々な疾患、老化などに関与していることが知られていることから、研究グループでは、今回の成果をもとにさらに研究を進めていくことで、ミトコンドリアが関わる生理作用と疾患における理解などにつながることが期待できるとコメントしている。