岡山大学は、地下水が湧き出る水辺で微生物が作る酸化鉄を原料として、ナノ粒子から構成される人工的に作製困難なシリカ・マイクロチューブ材料を開発したと発表した。同材料は、有機合成反応で優れた触媒活性を示すのに加え、様々なガスの高い吸着機能を有するという。

同成果は、同大大学院 自然科学研究科 無機材料学研究室の高田潤特任教授、黒田泰重教授、分子科学専攻の板谷篤司助教、妹尾昌治教授、化学生命工学専攻の工藤孝幸助教らによるもの。詳細は米国の科学雑誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。

今回、見出されたシリカ・マイクロチューブは、多孔質で直径約0.93μm、微生物由来の酸化鉄マイクロチューブを水素中で還元し、金属鉄粒子が析出したシリカチューブを作製後、酸処理によって鉄を溶解・除去して得られる。従来、不要とされていた天然の酸化鉄チューブを原料とし、還元処理と酸処理によって作り出されるエコな機能材料という。また、純粋なシリカ材料では見られない強い酸点(水酸基)を有する他、その酸性度は高温でも維持されるといった特徴を持つ。

また、エポキシドの開環反応やフリーデル・クラフツアルキル化反応などの基本的な酸触媒として高活性であり、亜酸化窒素(N2O)などのガスを吸着する能力にも優れている。微生物由来の酸化鉄チューブを出発物としているため、独特の形状と特異なナノ構造を持ち、強い酸点を有するものと推測され、ある種の化学反応の固体触媒として、従来材料よりも優れた触媒活性を示すと考えられる。高機能なシリカ材料として知られるMCM-41と比較しても、今回の材料は酸点の酸性度が強いとの結果もある。

同材料は、未開拓材料と位置付けられるので、幅広く機能探索が進めれば、他の反応系の触媒活性やガス吸着能が見出されることが期待され、予想を超えた機能の発見も考えられる。一方、自然界には水に溶けている鉄を酸化する様々なバクテリアが、地下水の湧き出る場所に生息しており、リボン状や鞘状といった多様な形態を持ったシリコンを含む酸化鉄を作ることが知られている。今後、これらの微生物由来の酸化鉄から、これまでにないユニークな多孔質シリカ材料を生み出す可能性があるとコメントしている。

シリカ・マイクロチューブ作製の模式図。(左)電子顕微鏡写真(SEM像)は出発物質の鉄酸化細菌由来の酸化鉄。(中央)水素で還元した後の像。赤丸で示した白い塊は還元処理で析出した金属鉄。(右)今回開発したシリカ・マイクロチューブ