名古屋大学(名大)は、米国ボストンカレッジのロレンス・スコット教授らと共同で、80個の炭素原子と30個の水素原子からなる炭素ナノ分子「ワープド・ナノグラフェン(warped nanographene)」の合成に成功したと発表した。
同成果は、同大 トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の伊丹健一郎教授、川澄克光研究員、瀬川泰知助教、ボストンカレッジのチェンイェン・チャン研究員、ロレンス・スコット教授らによるもの。詳細は「Nature Chemistry」に掲載された。
今回、研究グループはパラジウム・オルトクロラニルという独自のカップリング触媒を駆使し、コラニュレンという市販の化合物から2段階で「ワープド・ナノグラフェン」の合成を実現した。これまで、炭素のみからなる高機能ナノ物質(ナノカーボン)としては、フラーレン(球状)、カーボンナノチューブ(筒状)、グラフェン(シート状)などがある。今回の「ワープド・ナノグラフェン」は、うねり構造を有しており、既存のナノカーボンに分類できない「第4のナノカーボン」と位置づけられる。
研究で明らかになった基礎物性によると、太陽電池や有機半導体、バイオイメージングなど様々な分野への応用が期待できる分子であるという。
「ワープド・ナノグラフェン」の中心にあたる炭素20個の分子「コラニュレン(C20H10)」は、米国ボストンカレッジのロレンス・スコット教授らの研究によって大量合成法が確立され、すでに市販されている。今回の研究では、コラニュレンに対し、伊丹教授らが2011年に開発した「パラジウム・オルトクロラニル触媒」による直接カップリング反応を適用することで、5個のビフェニルユニットを一挙に導入することができ、そこで得られた化合物に酸化剤(DDQ)を作用させると縮環反応(5個の6角形構造と5個の7角形構造が新たに生成される)が進行し、大きく湾曲した「ワープド・グラフェン(C80H30)」が収率よく合成できることが確認された。
単結晶X線結晶構造解析から得られたワープド・ナノグラフェンの構造は、1.3nm四方のシートが大きく湾曲し、厚みは最大0.6nmであった。グラフェンは炭素原子の6角形構造からなる平面シート構造だが、ワープド・ナノグラフェンは平面構造を取りえない7角形構造が5つあるため、独特のうねり構造をもった分子となっている。また、グラフェンではその平面性から分子同士が密着しやすいため、有機溶媒への溶解性が悪いが、ワープド・ナノグラフェンは湾曲した構造のため分子同士の間に微小な空間が多数存在するため、有機溶媒によく溶ける性質を持っている。
さらに、その溶液に紫外光を照射すると緑色に発光することが確認されたほか、電子を繰り返し出し入れできる性質を有することも確認され、これらの現象はうねり構造や7角形構造の存在によって発現した物性であることもわかったという。
なお、研究グループでは、これまでフラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなど、発見当初には予測できなかった機能や物性が後から見つかり、それを用いて産業応用に発展してきた歴史がナノカーボン分野にはあるため、今回のワープド・ナノグラフェンにおいても、エレクトロニクス分野を中心としたさまざまな分野で活躍する高いポテンシャルがあることが期待できるとコメントしている。