中国を中心に感染者が増え続ける鳥インフルエンザA型・H7N9ウイルスの特性について、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授と国立感染症研究所、米国のスクリプス研究所などの共同研究チームは哺乳類動物を使った実験結果をまとめ、英科学誌『ネイチャー』(オンライン版、10日)に発表した。これまでにH7N9ウイルスのヒトからヒトへの感染は確認されていないが、哺乳類類でよく増殖できる能力をもつこと、ヒトは免疫をもたないこと、既存の医薬品には効果がないことなどが明らかになり、「H7N9ウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)が起これば、甚大な被害をもたらす可能性が高い」と指摘している。
H7N9ウイルスについて世界保健機関(WHO)は、今年4月に中国で初めて3人の感染者が発生したことを発表した。その後感染者は増え続け、7月4日現在、感染者は133人、うち43人が死亡している。これまでの研究で、H7N9ウイルスの粒子表面にあるHA(ヘマグルチニン)タンパク質が、鳥だけではなくヒトの細胞とも結合しやすくなっていることが分かった。実際に、同一家族内で複数の患者が発生した事例も3件報告されていることから、限定的な“ヒト-ヒト感染”が起きている可能性も指摘されている。
研究チームは、中国の患者から分離されたH7N9ウイルスの性状について、マウスとカニクイザルを使って実験したところ、2009年春に発生した新型インフルエンザA型(H1N1ウイルス)と同程度の病原性を示すことが分かった。イタチ科のフェレットを使いH7N9ウイルスの感染性と伝播性を調べたところ、フェレットの鼻やのどの上部気道でよく増えること、増殖時にはタンパク質のいくつかのアミノ酸が変化して、フェレット間で限定的な(3匹中1匹で)空気感染をすること、さらに、ヒトの細胞を強く認識すること(感染しやすいこと)などが明らかになった。鳥から分離されたH7N9ウイルスでは、フェレット間での感染はなかった。
ヒトから分離のH7N9ウイルスに対する抗体ついて、日本で500人の血清を検査したところ、全員がウイルスの増殖を阻害する抗体(中和抗体)を持っていなかった。このため、H7N9ウイルスがひとたびヒトからヒトへ感染が起きると、大流行を起こす可能性が高い。H7N9ウイルスの医薬品に対する感受性をマウスで調べたところ、ウイルスの増殖を抑制する既存のノイラミニダーゼ阻害剤(一般名「オセルタミビル」「ザナミビル」「ラニナミビル」)には感受性が低く、これら医薬品の効果はあまりないことが分かった。しかし、ウイルスの複製を妨害するRNAポリメラーゼ阻害剤(一般名「ファビピラビル」、現在未認可)には感受性を示した。
今回明らかになったこれらのH7N9ウイルスの性状は、今後の治療方法やワクチン開発、新規抗ウイルス薬の開発などの対策を考える上で、重要な発見だという。研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業〈ERATO型研究〉「河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクト」によって得られた。
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