鳥取県東部医療圏の基幹総合病院として大きな役割を果たしている鳥取県立中央病院では、夜間の救命救急センターにおいて専門医にかかる心身への高い負荷が問題となっていた。 患者の生命を最優先にしながらも医師の負担を減らすしくみを模索していた同病院医療情報管理室は、電子カルテをモバイルデバイスでセキュアに閲覧できるデスクトップ仮想化インフラを構築。その中核製品としてシトリックス社の「Citrix XenDesktop」が採用されることとなった。新インフラの構築によって、撮影された医療画像を専門医が在院中でなくてもモバイルデバイスで確認できるようになり、医師の業務負荷軽減が実現したという。
〔ユーザ概要〕
社名:鳥取県立中央病院
本社:鳥取県鳥取市江津730
設立:1949年2月1日
病床数:431床(一般病床 417床 (ICU 20床、HCU 12床、NICU 12床、MFICU 2床、結核病床 10床、感染症病床 4床)
URL:http://www.pref.tottori.lg.jp/chuoubyouin/[提案会社]
社名:株式会社ケイズ
本社:鳥取県米子市
設立:1975年7月
事業所:支店…鳥取、島根、岡山、広島
URL:http://www.kscom.co.jp/
夜間の救命救急センターで、専門医にかかる大きな業務負荷
鳥取県東部医療圏の基幹病院として救命救急センターを備えている同院では、24時間、昼夜の区別なく救急患者が運ばれてくる。夜間の場合、診察するのは当直医だ。専門外の患者が来院した場合、症状を聞いてX線撮影やCT検査などを指示することはできても、その結果から正確に診断を下すことが難しいケースがある。そのようなとき、当直医は何時であっても専門医に連絡を取って指示を仰ぐ。しかし、電話などでは詳しい状況がわからないため、たいてい専門医が来院することになっていた。患者の生命がかかっているので医師は当然このように対応するが、これが日常茶飯事であるために医師の心身にとって大きな負荷となっていることも事実だったという。
そうしたおり、別の県立病院の脳神経外科で、夜間の救急患者来院時、撮影した医療画像のうち、キー画像を専門医の持つスマートフォンに送信するという取り組みがスタートした。救命救急センターにおいて脳神経外科的処置は、1分1秒の違いで明暗を分けることが多いため、中央病院でも診療科独自でモバイルデバイスでの画像送信システムを検討することになったという。
電子カルテのデスクトップ仮想化技術に「Citrix XenDesktop」を選択
そこへシステム提案に訪れたのが、山陰地方を拠点とするシステムインテグレータの株式会社ケイズだった。同社は電子カルテをモバイルデバイスでセキュアに閲覧できるシステムを中央病院に紹介。提案したモバイルデバイスはノートPCだったが、同病院にはすでにiPadが普及しており、このシステムを救命救急センターに適用できるのではないかと期待を抱いた同病院 医療情報管理室は、ケイズに対し、iPad、iPhoneを前提にセキュリティとパフォーマンスさらに煮詰めた再提案を依頼した。鳥取県立中央病院 医療情報管理室 副主幹 皆川昇司氏は検討当時を次のように振り返る。
「モバイルデバイスとなると、どうしても紛失・盗難のリスクが高まります。しかし、情報漏えいは絶対に許されませんから、何か起こってから通信事業者に連絡するまでの数時間の間に破られないパスワード強度やセキュアな通信回線、モバイルデバイスにデータが残らないしくみが必要だと考えました。
また、パフォーマンスも重要で、院内と同等は無理としても、デバイスで画像をダウンロードするより医師が着替えて車で来た方が速いというのでは導入する意味がありません。一定レベル以上の解像度を有した医療画像を扱いつつ快適に使えることをめざしました」
こうした検討の末に、アシストの販売するCitrix XenDesktopを中核とする、「iPad、iPhoneをクライアントとして、院外で電子カルテを閲覧するデスクトップ仮想化インフラ」へとたどりついた。
ケイズは、鳥取のLTE回線事情がまだ限定的であることから、3G、4G回線での接続を前提として容量の大きい医療画像をストレスなく見るべく、画面を高度に圧縮して送信するCitrix XenDesktopのデスクトップ仮想化インフラが適していると考えたという。
また、閲覧する電子カルテがWindowsベースのクライアント/サーバ型システムで動くシステムで、このクライアント画面をiPad、iPhoneで表示するので、事前検証を必要とするアプリケーション仮想型ではなく、デスクトップ仮想型のCitrix XenDesktopを選択した。これならばデバイスにデータは残らない。さらにセキュリティを考慮して、インターネットへは接続しない仕様に変更した。
院内で動作検証を進め、医師たちに試用してもらったところ、独自でシステム導入を検討していた脳神経外科を始め、“問題ない、使ってみたい”という前向きな声が複数の診療科目から寄せられることとなる。そこで医療情報管理室は正式に導入を決定、希望した診療科に対しiPad、iPhoneを配付することとなった。
導入後さっそく訪れた出番、医師のワークスタイル変革に貢献
新システム(図1)は、2013年4月22日に本稼動を迎え、順調に利用がスタート。現在、脳外科、形成外科、胸部外科、整形外科など10を超える診療科目で、iPad28台、iPhone2台が利用されている。特定の医師が常に携帯する科もあれば、当番の待機医が交代で携帯する科もある。具体的な使い方についてはすべて現場に一任されているという。
システムを使い始めてから1ヶ月も経たない頃、深夜に頭部を強打した小児が救急患者として運ばれてきた。当直医はCT検査を行い、画像を電子カルテにアップロードしてすでに帰宅していた専門医に連絡を取った。専門医はiPhone上で異常がないことを確認。念のためその夜は病院で過ごしてもらい、翌日もう一度専門医が診察して小児は両親と一緒に無事帰宅したそうだ。
鳥取県立中央病院 医療情報管理室 副室長 小谷訓男氏はこのエピソードを語りながら、システムの導入効果を次のように語る。
「これは激務になりがちな医師の業務負荷軽減やワークスタイル変革をめざして導入したものでしたが、さっそく活躍しました。診療科の医師もこれが入ってよかった、肉体的、精神的負担が減ったと喜んでおられました」
診療科どうしの連携という新しい形での利用も始まっている。今までは電子カルテシステムのある院内でしか医師は意見交換できなかったが、モバイルデバイスを携帯したことによって、いつでもどこでも画像を見ながら話ができるようになった。今まで不可能だったことが可能になったというわけだ。
皆川氏はこのように話す。 「われわれが日ごろから問題意識を持っていたテーマに取り組み、現場の先生たちにも高く望まれる形でシステムを導入できました。部門独自システムの案もありましたが、それだとユーザは少ないのにコストはもっとかかっていたでしょう。今回は、汎用性が高くよいシステムを構築できたと満足しています」
今後、このシステムは通信回線のさらなる高速化を進めながら、院内での利用など新たな展開を模索していく予定だ。
文:吉田育代