壇蜜の身体に3Dプロジェクションマッピングを行う、という斬新な演出が話題となったテレビ東京系のBSデジタル放送局・BSジャパンのテレビ番組「BLOODY TUBE」。だが、この番組のすごさは、旬の女優と最新技術を用いた演出だけに留まらない。視聴者と番組をリアルタイムでつなぐための工夫が随所に見受けられた。これは、ネットを主戦場とするクリエイティブ企業・バスキュールとBSジャパンが出会い、"異文化交流"したことで生まれたものだという。

テレビ番組「BLOODY TUBE」内で壇蜜にプロジェクションマッピングを行った様子

壇蜜×プロジェクションマッピングについて聞いた前回の記事に引き続き、同番組の制作陣から、この番組を構成するさまざまな工夫についてお話をうかがった。

左から、テレビ東京 制作局の石井成臣氏、クリエイティブ企業・バスキュールの原ノブオ氏、プロジェクションマッピングを多数手がける企業・P.I.C.S.の加島貴彦氏、テレビ東京 技術局の太田佳彦氏

■「BLOODY TUBE」とは?
6月15日にBSジャパンで生放送されたテレビ番組。壇蜜にプロジェクションマッピングを行うことで彼女の身体をレースコースに見立て、その体内にある血管を駆け巡っているかのような視聴者参加型ゲームをリアルタイムで実施した。視聴者は血液型別の4チームに分かれ、各チームの代表となるタレントと共にゲームに参加。ゲームのコントローラーには視聴者が所有するスマートフォンを利用し、成績に応じて人気声優による新録ボイスが再生される特典もついている。そして、ゲームで優勝したチームの上位1,000名には計100万Pontaポイントが贈られるという、盛りだくさんな内容となった。

ネットとテレビの"橋渡し"は新たな分野

この番組の制作にあたり、ゲームなどシステム面の構築はバスキュールが主体となり、テレビ東京は番組の演出を担当した。自身が作り上げたゲームがそのまま放送されるという状態で、「プレッシャーはもちろん、分からないことも多かった」とバスキュールの原氏は語る。

Web上で動くシステムを放送にのせる際、その橋渡しの部分を担う作業やノウハウは、プロフェッショナルと呼べるような人がいない新たな分野だ。そのため、両社が話し合いながら、手探りで制作を進めていったという。

テレビマンから見たネットのシステム

テレビ東京の技術局・太田氏は、「テレビ番組の制作の常識からすると、バスキュールが構築したシステムはとてもシンプルなもの」だと語る。しかしながら、リアルタイムで非常に多くのデータを扱い、さまざまな要素を単一のプログラムでさばいている状態で、なおかつ内部では何かあったときのケアは施されていたという。その精度の高さが「とても勉強になった」と太田氏は振り返った。

バスキュールが制作した、都道府県別にゲームの参加者数を表示するリアルタイムアクセスモニタCG (c)Bascule Inc. 2013

番組中には、ゲームの舞台の中にバスキュールや協力企業のロゴやキャラクターを表示させる試みも行われた。 (c)Bascule Inc. 2013

テレビの業務用機材 VS MacBook?

一方、バスキュールの原氏は、テレビとネットで最も違う部分として「設備」を挙げた。テレビの技術の部分を司るのは、編集室の面積のほとんどを占める、編集機や音声卓といった巨大な設備。ニュース番組の中などで見かけたことのある人も多いかと思う。一方、バスキュールのシステムの母艦となるのはノートパソコン。今回の番組でも、5台のMacBook Proを現場で「スチャッ」と開けて動かしていたという。番組に使うシステムをノートパソコンを並べて動かしている絵面というのは、テレビの撮影現場ではかなりイレギュラーな光景であったようだ。

こうした異文化交流の結果、番組中の演出も"テレビ番組らしい"定番のテロップなどと、Webよりの先進的なデザインが混ざり合い、非常に個性的なものとなっていた。バスキュールの原氏も「(番組の)"画"の部分は異文化交流だと思っていた」としながら、「テレビならではの良さや文脈もある中で、インタラクティブ・コンテンツを制作している我々の文化をどこまで組み合わせていくかを探るのが重要であり大変だった」と明かした。その苦労の甲斐あって、視聴者にWebとテレビ、両方が手をつなぐことで生まれる、新たな分野の可能性を伝えることができたのではないだろうか。