本田技研工業(ホンダ)は、日本科学未来館(未来館)にて「「自律型説明ロボット」としてのASIMO実証実験」を、3階常設展示「未来をつくる」の中の「ロボットワールド」で8月2日(金)まで実施中だ(画像1)。実験開始初日の7月3日にプレス向けに実証実験が公開されたので、その模様をお届けする。
ASIMOというと、世界的に見てもヒューマノイドロボットの代名詞で、ロボット界のスーパースターといったところは、誰も否定できないところだろう。最新モデルは2011年11月に発表された3代目、今回の実証実験はその3代目が久しぶりに表舞台に出てくる形となった。まだ3代目の実物を見たことのないASIMOファンにとっては、今回の実証実験は貴重な機会となっているのである。というわけで、3代目をアップで紹介(画像2~7)。
なお、ホンダの公式な発表としては3代目ASIMOのことを「新型ASIMO」といっているのだが、区別をさせていただきたい場合は何代目と表記させていただいており、ASIMOとある場合は基本的には3代目のことだと思ってもらいたい。なお、比較のために初代から3代目までを並べてみた(画像8)。さすがにまるっきり同じ距離でなおかつ同じ角度や同じ向きでの撮影というのは無理なので、ちょっと身長差がかわかりづらいと思うが、初代ASIMOは身長は120cmで、2代目と3代目は130cmである。
また、3代目が登場したからといって、各所のASIMOがすべて2代目から3代目に置き換わったかというとそのようなことはなく、未来館でもまだまだ元気に2代目ががんばっている(さすがに初代は全機引退済みで、ツインリンクもてぎなどで展示されているのみ)。未来館のサイエンスコミュニケーターの方によれば、未来館的には2代目は実際に同僚の1台であり、3代目はやって来たばかりの新人ルーキーはルーキーでも大型ルーキー)という感覚だそうだ。
ASIMOは、常設でイベントを開催している施設としては鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎ、ホンダウェルカムプラザ青山があり、そして秋葉原ダイビルのStudio ASIMOではトレーニング(各地での出張イベントに合わせた調整)が行われたりするが、現状、2代目と3代目が同時に活動しているのは未来館だけとなる。
同時に稼働してくれると、筆者のようなハードな(笑)ASIMOファンとしてはたまらないところがあるのだが(ASIMOを家に1台置きたいぐらいではある)、残念ながらさすがに未来館でも共演は今のところはない(オペレーションが大変なためと思われる)。
とはいっても、2代目も現役でイベントが毎日11時と14時に行われており(画像9・10)、その30分後には3代目による実証実験のそれぞれ2回目と4回目が行われるので、このタイミングでロボットステージに行くと新旧比較を実際に自分の目でしやすい(厳密には、2代目の印象が残っている内に3代目を見られるという感じとなる)。なお実証実験のスケジュールは、10:05、11:45、12:30、14:45、15:45、16:30の1日6回が予定されている。
ちなみに2代目と3代目を比較した差異は、明らかにわかる外見のデザイン的な違いを除くと、一番わかりやすいのが実は音。3代目ASIMOの方がより強力なサーボモータを搭載しているようで、結構高周波音がするのだ。まぁ、うるさくなったというのはあまりいいイメージではないのだが、より強力なモータを搭載した結果のトレードオフ、というところなのだろう。
あと、デザイン的には初代から2代目になった時ほど大きな変更はないものの(初代は角張っていてクリーム色だったが、2代目は角が取れてホワイトになった)、肉眼で見ると心なしか全体的にパーツがスリムになった感じがする(胴回りや腕などが少し細くなったような感じ)。そのことに関しては、未来館のサイエンスコミュニケーターの方々もいっていたので、たぶん間違いない。
それから、これまたサイエンスコミュニケーターの方に最初にいわれて気がついたところだが、動きの滑らかさはやはり3代目の方が上のようだ(新型の方が滑らかになるのは当然だが)。なお、ASIMOのトレードマークの1つであるあのかわいい声に変更はない。
さて、前置きはそんな感じで、そろそろ本筋の実証実験のレポートに移ろう。まず今回の狙いだが、この実証実験を通して、「ヒトとロボットの双方向コミュニケーションの可能性を探る」としている。3代目には2011年11月の発表時点から「自律行動制御技術」が搭載されており、人の状況をとらえたり、人の行動の目的を推定したりといったことが可能だ。つまり、ASIMOが自律的に判断できるのである。
ただし、今回の実証実験に当たっては、ハードウェア的には同じ3代目だが、発表時のものと比較してソフトウェア的には大幅にアップデートされた。機能の変更や追加が施されており、ソフトウェアのバージョンに関してはメジャーアップデートというぐらい変わっているようだ。発表時の時点と今回の最新バージョンの違いは、集団の意向を反映できるようになった、という点である(今回は天井に備えられた6つの空間センサからの情報を統合することで使って数十人に対応できるようになった)。
実は、今回のような多数の一般の来館者を相手にしたロボットとヒトの双方向コミュニケーション実験は国内外を通じて初めての試みだという。実証実験に参加する来館者は毎回異なるわけで、それだけでもASIMOにとっては環境が異なり、そうやってヒトや環境が常に変化する実空間でのヒトとのコミュニケーションを行うことで、さまざまなデータを得られ、今後のロボット研究へ活かすことができるとしている。
実証実験はどんな内容かというと、大まかにいうと、来館者に対してASIMO自身が自分に備わっている機能を説明するというものだ。それだと今までの2代目も同じようなことをやっているかと思われるだろうが、実は全然違う。来館者の応答を待ってスクリーンのプレゼン画面をASIMO自身が進めたり、しゃべったり、移動したりするなど、インタラクティブ性が備えられているのだ。つまり、状況に応じて進行が変化していくというわけである。
実証実験の流れとしては、裏手に引っ込んでいる時は実験開始前の早い段階で1度ステージに出てきて(階段を2段ほど上がってくる)、ステージの壁際にある自動充電スタンドにドッキング。充電モードに入った状態で開始時刻を待ち(画像11・12)、時間が来たらスタンドから離脱して実証実験に参加している来館者の前までやって来て、挨拶を始めるというわけだ。
ちなみに充電中は何もしていないかというとそうではなく、いろいろと情報を収集していたりする(後ほど説明)。そして、スタンドから来館者の前まで何歩か歩いてくる時は、特に人が多く集まっているところの前に移動するそうである(筆者が見た3回とも満員だったため、普通に正面に移動していた)。
今回の実験では、前述したように来館者とインタラクティブにやりとりをするわけだが、さすがに音声認識機能で来館者の要望を聞き取ってそれに応えるということはない。ASIMOが3択もしくは4択の「ASIMOに説明してほしい内容」を提示するので、それを来館者がステージ前に3台設置された筐体のタッチパネル(画像13)で選び、ASIMOがそれに答えるという仕組みになっている。
最初に提示されるのは、技術の仕組みに関するもので、「体のしくみ」、「人がわかる」(センサの説明)、「自分で考える」(自律行動制御の説明)の3種類(画像14)。ASIMOはそれを説明し、来館者に対して挙手して選択するように促す。それをASIMO自身に搭載されているセンサと、前述したようにステージ前の天井に設置された6つの空間センサを融合させて、3つの内のどれで一番上がっている手が多いのかといったことをカウントし、話す内容を決定するというわけだ。集団があった時、その意向が分散する場合は挙手を促してそれで多数決を採れる仕組みを持っているというわけだ。
その3択の後は、ASIMOの機能について、どう情報処理をしているのかもスクリーンも利用して、そして身振り手振りを交えつつ、説明を実施(画像15)。視線配分すら考えられており、極力多くの方向に顔を向けることで、来館者からしたら「おっ、こっちを向いてくれた!」という気分を味わわせてくれるようになっているのである。
ちなみに、こうしたことを2代目でやろうとすると、実はオペレータがサポートしないと無理である。特に、観客とのインタラクティブなやり取りなどは、オペレータが判断しなければ絶対に無理だったわけだが、仕組み的な工夫があるとはいえ、3代目はそれを自動でやってのけるのだから、とんでもない進歩といえるだろう。
続いてはQ&Aコーナーで、挙手して当てられた3人がタッチパネルで4つの質問から選ぶ(画像16・17)。質問内容は「おなかには何が入っているの?」、「誕生日はいつですか?」、「なぜASIMOという名前なの?」、「ASIMOはどのぐらいの速さで歩けるの?」など約100個あり、その中からランダムに毎回4つを選んでいるので、すべての質問を聴くには未来館に何日も通い詰めないと無理である。
画像16。ASIMOに関するQ&Aは、約100の質問が用意されており、全部の情報を知れば、間違いなくASIMO博士(笑)になれる |
画像17。アンサー画面。ASIMOのあらゆることを知りたいヒトは、連日通い詰めるべし |
ちなみに、挙手を促した後どうやって選んでいるかというと、なんと一番早い人を選ぶ。先ほどの3択の時もそうだが、ASIMOのカメラから見てどれだけ来館者の動きも認識しており、ヒトと同等の機能を備えているというわけだ(画像18)。
さらに驚くのが、実はステージに出てきて充電中の時からステージ前に集まり出した来館者を天井のセンサと連動させてロックオンしており、トータルでどのヒトがステージ前に何秒いるかという計測まで行っているところ(画像19)。それにより、最も早くから待っていてくれた人も紹介できるのだ。
画像18。ASIMOのカメラの映像で、ステージ前にいる実証実験に参加した来館者のことを認識しているところを映している |
画像19。実証実験参加中の来館者の、ステージ前に来た時からの時間を表示。一番早くから来ている人がわかる |
正直、俯瞰視点で来館者の位置を円で表示し、それぞれに秒数が表示されている画面を見た時は、もはや1人のヒトの機能を遙かに超えており、「機械に見張られている感」がして、筆者としてはなんとなく怖い気がした(プレゼン画面のタイトルの「ASIMOは見ている!」というのもなんか怖い感じ)。そういった年代なのかも知れないが、SF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」のHAL9000の暴走につながりそうで、「うーん」という感じを受ける。
なので、ここは「充電中ですが来館者の皆さんのことは認識しています」的なメッセージと、ASIMO視点のお客さん認識画面を一緒に表示すれば、怖い感じはなくなるのではないかと思う。それなら、「え!? 充電中から見ていたの!?」とか、「ここにいる来館者全員、何秒いるのかわかるの!?」という驚かされる感覚はなくなると思うのだが、いかがだろうか。まぁ、この「え!?」というのも実証実験のデータ取りの一環なのであれば、それはそれでいいとは思う。
こうして実証実験は終わりとなり、最後は未来館のイベント紹介などの宣伝をしつつ、充電スタンドに接続して待機となる。もしくは、次が2代目のイベントがある時は裏手に引っ込んでバトンタッチとなるわけだ(画像20・21)。実証実験の様子は、動画でも撮影したので、そちらを見ていただきたい。内容は基本的にはすべて同じだが、3箇所の別角度で撮ってみたので、時間のある方はぜひ全部見ていただくと、面白いと思う(動画1~3)。
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未来館は平日の午前中から来館者が多く(日本全国からの修学旅行でここを訪れる学校は多い)、この日は見られなかったのだが(たぶんそんな日は1日たりともないだろうが)、実証実験の開始時刻になっても誰もステージ前に来館者がいない時は、天井のセンサからのネットワークを介した情報により、滞留が検知されないため、説明行動(実証実験)を開始しない。
さらに、途中で誰もいなくなってしまうと、中断して充電スタンドに戻ってしまうそうである。なんか、人気のなさがわかってガックリとモチベーションを失って、凹みながらASIMOがスゴスゴと帰って行くようで、ちょっとかわいそう(笑)。
もっとも、前述したように絶対にステージ前にヒトがひとりもいない何てことはまずあり得ないので(平日の12時台ですら、「ASIMOの実証実験が始まりま~す!」の案内で、どこからともなく来館者が集まっていた)、ASIMOがかわいそうなことになることはほぼないのだが。まだまだASIMOは「珍しい」ので、2代目の通常のイベントだって人だかりになるし、ケータイやスマホで写真を撮られまくりなので、これからもホンダが誇るヒューマノイドロボットのスーパースターとして、活躍していってほしい。