ビーズを引こうとしているキンギョ
(提供:慶應義塾大学)

音楽を区別する能力のある動物として、サルやゾウなどの哺乳類とカラスやハトなどの鳥類、さらに魚類のコイでの研究報告があるが、慶應義塾大学の渡辺茂名誉教授と南フロリダ大学の篠塚一貴研究員の研究グループはさらに、キンギョも音楽を区別できることを実験で確かめた。しかしキンギョは音楽に好みを示さなかった。ヒト以外でこれまで、明瞭に音楽への好みが見られた動物は鳴禽(めいきん)類のブンチョウだけだという。

研究グループは、ある音楽が水槽の水中スピーカーから流れている時にビーズのついたひもを引くと餌がもらえ、別の音楽では餌がもらえない装置を作った。餌が出る音楽として2匹のキンギョにバッハの「トッカータとフーガ ニ短調」、他の2匹のキンギョにはストラヴィンスキーの「春の祭典」をそれぞれ30秒ずつ、1日に20回ずつ聞かせる訓練をした。

キンギョが餌の出る音楽の時にひもを引く反応が1日の全反応のうち75%以上で観察され、これが3 日続けば「学習した」と見なした。その結果、4匹のキンギョは、早いもので79日、最も遅いもので196日かかって音楽の区別を学習した。訓練時に使わなかったバッハとストラヴィンスキーの曲を流すと区別ができなかった。

次に「音楽の好み」実験として、水槽の両端にスピーカーがあり、上からビデオカメラでキンギョの動きを追跡する装置を作った。キンギョが両端から30センチメートル以内の区画に入ると、そちら側のスピーカーから音楽がランダムな順番で流れる仕組み。音楽が流れている区画内にキンギョが滞在した時間をもって「好み」と判断した。

この装置を使って、別のキンギョ6匹に「トッカータとフーガニ短調」と「春の祭典」の音楽、さらにコンピューターで作成した「白色雑音」、ふだんの水槽内の雑音を録音した「水中雑音」を聞かせる実験を1日に30分間ずつ8日間行った。その結果、1匹は有意に「春の祭典」側での滞在時間が増えたが、他の5匹では有意差がなかった。白色雑音と水中雑音では、5匹が水中雑音を嫌う傾向を示したという。

これまでの報告例では、コイの実験で古典音楽とブルースの区別に成功しているが、好みの実験はしていない。今回のキンギョの実験で、音楽の好みがない動物が魚類にまで拡張できることを明らかにしたことが重要だという。

今まで音楽の好みが明瞭にみられたのは、複雑な聴覚コミュニケーションを持つヒトと鳴禽類のブンチョウだけで、ヒトは言語を学習し、鳴禽類も歌を学習しなくてはならない。研究グループは「音楽に好みがあることは、複雑な聴覚刺激に細かい好みの差があることを示しており、そのことが複雑な聴覚コミュニケーションの学習に有利に働くと思われる」と述べている。

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