熊本大学(熊大)は7月2日、ヒトやマウスなどほ乳類の胚が子宮に着床する前に、将来体を作る細胞と、胎盤などの母体からの栄養を胚に届ける働きをする組織を作る細胞の2種類の細胞に分かれる仕組みを解明したと発表した。

同成果は同大発生医学研究所の佐々木洋 教授、同 平手良和 助教らによるもの。詳細は「Current Biology」オンライン版に掲載された。

着床前に分けられる体を作る細胞は着床前の胚の内側に、胎盤を作る細胞は外側にそれぞれ作られるが、研究グループのこれまでの研究から、どちらの細胞を作るかは、がん抑制シグナル「ヒッポシグナル」が決めることを報告していた。

しかし、どのようにして、胚の中の細胞の位置がヒッポシグナルを働かせるのか、その仕組みはわかっていなかったことから、今回、その機構解明に挑んだ。

具体的には、マウスの着床前胚の中でヒッポシグナルが働く仕組みを研究することで、タンパク質「Amot」が、細胞接着装置に結合していると、ヒッポシグナルが働くことを発見したほか、内側の細胞ではAmotが細胞接着装置に結合しているために、ヒッポシグナルが働くのに対して、外側の細胞では、細胞が極性化しているため、Amotが細胞接着装置から切り離されており、これによりヒッポシグナルが働かないことを発見した。

なお研究グループでは、細胞同士の接着や細胞の極性化は、体の中のほとんどの臓器の細胞で見られる基本的な現象であること、ならびにヒッポシグナルは、がん抑制シグナルであることから、さまざまな臓器の発生研究やがん研究の手がかりとなることが期待されるとコメントしている。

細胞の極性化と細胞接着がヒッポシグナルを調節するイメージ。着床前胚の内側の細胞では、細胞間の接着がヒッポシグナルを働かせるが、外側の細胞では、細胞が極性化しているため接着していてもヒッポシグナルが働かない