東京工科大学は、食用油脂を使った加熱調理中に気分が悪くなる「油酔い」の原因物質とされるアルデヒドの一種で刺激臭を有する揮発性の化合物「アクロレイン」の発生メカニズムを解明したことを発表した。

同成果は、同大応用生物学部の遠藤泰志教授らによるもので、詳細は科学雑誌「Journal of the American Oil Chemists' Society」7月号に掲載された。

食用油脂を用いてフライや炒めなどの加熱調理を長時間行うと、悪臭がこもり、作業者の気分が悪くなる「油酔い」の状態になることがある。油酔いの原因物質としては、これまで主に油脂のグリセリンの熱分解によって生じるアクロレインとされてきたが、油脂の種類によっては、油酔いを起こしにくいことも経験上知られており、食用油脂の加熱によって、どの程度のアクロレインが発生するのかは不明のままであった。

そこで、今回研究チームは、米油製造大手の築野食品工業と共同で、調理環境を改善することを目的に、各種食用油脂を加熱した後のアクロレインを定量し、アクロレインを生じにくい油脂の探索を行った。

その結果、加熱調理中に生じるアクロレインの量は、ナタネ油や大豆油で多く、コメ油やハイオレイックヒマワリ油で少ないという油脂の種類で異なることが判明。詳しい調査の結果、炭素数18で、二重結合を3つ持つ、人の身体にとって必要な必須脂肪酸である油脂中のリノレン酸の含有率が、加熱時のアクロレインの生成と悪臭との間に高い相関性を持つことが明らかになり、これまで考えられていたグリセリンの熱分解ではなく、リノレン酸との関連性が強いことが示されたこととなった。

なお、研究チームでは、今回の成果を受けて、リノレン酸含量の少ない油脂、あるいは酸素濃度を減らすような不活性ガスを利用することで、食用油脂を使った加熱調理中のアクロレインの発生を抑制できることが示唆されたとしており、実際に加熱調理を行っているファストフード店や惣菜店などの現場環境の改善につながることが期待されるとコメントしている。

アクロレインの経時変化

リノレン酸の含有率がアクロレインの生成と悪臭の間に高い相関性をもっていた