東北大学は6月24日、生体組織工学に必要不可欠な生体適合性材料の強度と導電性の改良に成功したと発表した。

成果は、同大 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) ラモン・アスコン助教、アハディアン助手、カデムホッセイニ主任研究者、末永智一 主任研究者らによるもの。同大 大学院工学研究科、大学院環境科学研究科、物質・材料研究機構(NIMS)、ハーバード大学などと共同で行われた。詳細は、ドイツの科学雑誌「Advanced Materials」オンライン版に掲載された。

iPS細胞などの実用化などの期待から、病変した臓器や組織を代替・修復するための組織工学に対する注目が高まっている。臓器の代わりとなる生体組織を作製するためには、細胞が集まって立体的に成長する必要があり、細胞同士の接着剤や成長の足場として働く材料が必要不可欠となる。これまで、生体適合性が高い親水性ゲルが足場材料として利用されてきたが、機械的強度に乏しく導電性が低いため、筋肉、心臓、神経組織など、十分な強度と高い電気刺激への反応性が求められる生体組織の作製に使用することが困難だった。このため、親水性ゲルに強度と導電性を付与する技術開発が、組織工学の分野で求められていた。

今回、研究グループは、親水性ゲルとカーボンナノチューブのハイブリッド材料を、不均一な電場の中におき、誘電泳動という現象を利用することで、ゲル中のカーボンナノチューブの向きを一方向にそろえることを実現した。

ゲル中でカーボンナノチューブが縦に配列された生体適合性材料

親水性ゲルとカーボンナノチューブによるハイブリッド材料作製の仕組み

親水性ゲル中でのカーボンナノチューブの配向を示す顕微鏡写真。誘電泳動(DEP)を誘起することにより、ランダムに並んでいたカーボンナノチューブ(左)が縦方向に配列している(右)

一方向に向きがそろったことで、十分な機械的強度が得られ、導電性が向上することが確認されたほか、同材料を用いて、筋芽細胞に電気パルスを加えながら培養したところ、ひも状の筋繊維に変化することも確認されたほか、従来の細胞工学の技術で作製されたものより効率的に収縮弛緩することが示されたとのことで、ハイブリッド材料の高い導電性によって、電気刺激が効率的に筋芽細胞に作用したためと考えられると研究グループでは説明している。

ハイブリッド材料(hybrid GelMA-aligned CNTs hydrogel)の電気的特性。他の材料に比べ抵抗が小さい(導電性が高い)

改良した生体適合性材料を使い作製した筋繊維

ハイブリッド材料を足場にした筋繊維作製の仕組み

なお、研究グループは今後、さらに組織化され生体内と類似の機能を有する筋肉組織を今回の成果であるハイブリッド材料上に作製し、新しいタイプの薬剤スクリーニング、バイオセンシングシステムへと展開していく計画としている。また、ハイブリッド材料上の筋肉組織を駆動源としたバイオポンプなども開発する予定としている。