東北大学は6月20日、肥大型心筋症や骨格の異常などを伴う先天性疾患であるヌーナン症候群の新規原因遺伝子と「RIT1遺伝子変異」を同定し、ヒトの発生においてRIT1の変異が、がん原遺伝子HRAS、KRAS、NRASの変異と同じ働きを持つことを示すことを発表した。
同成果は、同大 大学院医学系研究科遺伝病学分野の青木洋子准教授、新堀哲也助教、松原洋一教授、創生応用医学研究センター細胞増殖制御分野の中山啓子教授、加齢医学研究所神経機能情報研究分野の小椋利彦教授、番匠俊博研究員らの研究グループと、大阪府立母子保健総合医療センター、愛知県心身障害者コロニー、神奈川県立こども医療センター、埼玉県立小児医療センター、浜松医科大学など全国の小児科・遺伝科との共同研究によるもの。詳細は、米国の学術誌「American Journal of Human Genetics」オンライン版に掲載された。
ヌーナン症候群とコステロ症候群、cardio-facio-cutaneous(CFC)症候群は低身長・心疾患・骨格の異常・がん感受性を伴う先天性疾患で互いに類似していることが知られている。
研究グループは、2005年と2006年にコステロ症候群とCFC(シーエフシー)症候群の原因となる遺伝子を同定しており、その後の世界的な研究の推進から、これらの疾患でRAS/MAPKシグナル伝達系の分子に次々と変異が生じていることが同定されるに至り、青木准教授らは「RAS/MAPK症候群」という新たな疾患概念を提唱していた。
そうした背景から、東北大学はこれらの病気における厚労省難病研究班の代表となり、遺伝病学分野と小児科が共同して、これまで600例以上のRAS/MAPK症候群に対して遺伝子診断を提供してきたが、その一方で約40%は原因が依然として不明なままで、新たな原因遺伝子の発見が求められていた。
今回、研究グループでは次世代シークエンサーを活用して、新たな原因遺伝子であるRIT1遺伝子変異を発見することに成功した。実際に調査を行ったところ、RIT1遺伝子変異はこれまでに原因が不明だった180人のRAS/MAPAK症候群のうち17人(9%)を同定したとのことで、中でも同遺伝子変異をもった患者は肥大型心筋症の合併率が高いことが判明したという。
また、遺伝子変異を導入したゼブラフィッシュでは、心臓の異常や頭部の変形が確認されたという。
なお、研究グループでは、今回の成果について、これまで機能が不明であったRASサブファミリのRIT1が古典的がん原遺伝子RAS(HRAS、KRAS、NRAS)と同じ働きを持つ可能性があることを示したものであることに加え、同疾患の病態の解明や治療への道を切り開くものとして期待されるものとなるとコメントしている。