KDDIは6月19日、第29期定時株主総会を開催した。株主総会の冒頭、KDDI 代表取締役社長 田中 孝司氏が、au 4G LTEの2GHzエリア誤記問題と度重なる通信障害について謝罪。書名質問や、出席株主の質疑応答においても、2つの問題に質問が集中した。
田中氏は、au 4G LTEの2GHzエリアについて利用者に誤解を与える表示があったとして、5月10日に総務省から指導を受けたことを挙げ、「再発防止策を講じ、周知徹底をはかるよう指示、内部監査体制を強化した」と述べた。
また、年末年始、4月、5月と立て続けに起こったLTE通信障害、キャリアEメール障害、音声通話障害についても謝罪。「現状を真摯に受け止め深く反省し、再発防止に努めたい」と語った。
昨年度業績は全面的に好調を維持
挨拶のあと、2012年度(29期)の事業報告に移った。KDDIが「成長起点の年」と位置付けた昨年度は、連結営業利益が前期比+7.3%の5127億円と5000億円を突破し、顧客1人あたりの通信料収入(ARPU)が月次ベースで底を打ち、上昇するなど、3M戦略の好調ぶりがあらわれた1年となった。
KDDIでは、昨年度からパーソナル、バリュー、ビジネス、グローバルの4事業セグメントに変更を行った。パーソナルセグメントでは、モバイルと固定通信網を手掛けるKDDIの強みとしてスマートフォンの回線と固定回線を同時に契約することで割引を行う"auスマートバリュー"が好調であった。
契約数推移では2012年3月末で44万世帯、66万回線であったau契約数が、2013年3月末には212万世帯、386万回線まで増加したという。1世帯あたりのau回線数も、1.5回線から1.8回線に上昇し、家族でau携帯を持つメリットが認知されつつあることを示した。
バリューセグメントは、定額で500種類以上のスマートフォンアプリが使い放題となる"auスマートパス"が、574万契約にまで拡大した。同セグメントでは、コンテンツ調達コストなどの関連費用が先行して発生したため、増収減益となっている。
ビジネスセグメントでは、昨年秋より導入したiPadの法人販売が好調であり、スマートバリューfor Businessの提供開始なども合わせて、増収増益となった。
最後にグローバルセグメントでは、北京とロシアに新規のテレハウス(KDDIが展開する海外データセンター)を開設するなど、クラウドサービスの成長と共に伸びつつあるデータセンターの需要を満たす取り組みを紹介した。
ほかに、関連会社であるUQコミュニケーションズとじぶん銀行の状況に触れた。UQコミュニケーションズは、3月末に契約数が408万件と400万件を突破し、設立以来初となる単年度黒字化も達成した。じぶん銀行は、口座数が150万口座となり、預金残高は前期比2161億円増の5658億円まで増加したという。
2015年に向け新たなステージへ
続いて、2013年度(30期)の取り組みの説明を行った。KDDIでは、2013年(30期)~2015年(32期)の中期目標「新たなステージに向けて」として本格的な利益拡大を目指し、3M戦略の推進・進化やグローバル戦略の推進を掲げている。
田中氏が社長に就任した2011年度は、auのモメンタム(勢い)を回復するとの目標のもとAndroidスマートフォンラインナップの拡充やiPhoneを投入することで、基盤事業の立て直しを行った。2012年度は、LTE端末の投入や3M戦略の本格展開でauスマートパス、auスマートバリューが順調な伸びを見せ、「成長起点」の目標を十分に達成したといえる。
その流れを踏まえ、30期は中期目標へのスタートの年として事業成長の追求を行う。3M戦略の推進・深化では、ARPUを追うだけではなく、auスマートパスなどの付加価値売上を増やし、新規契約と解約率低下に伴う顧客基盤の強化と合わせていくことで、収益の最大化を図るという。
グローバル戦略の推進では、国内事業で培ったノウハウを生かし、データセンターなど様々な領域で積極的に海外展開を行っていくという。アジア新興国や米国では、グローバルコンシューマ事業においてやモバイルとインターネットサービスなどの展開も強化していくとしている。
また、中小法人顧客向けビジネスの強化として、連結子会社である「KDDIまとめてオフィス(KMO)」の営業体制を全国に拡大した。KDDI本体のソリューション営業本部とKMOの連携を広げていくことで、中小法人シェア拡大を積極的に狙っていくものとみられる。
中期目標「新たなステージに向けて」の具体的な成長目標としては、「利益成長」と「株主還元」を掲げた。営業利益の成長率を毎期2桁成長に設定し、株式の配当性向を30%超とするという。
質問の中心はエリア誤記問題と通信障害
書面質問と質疑応答では、冒頭でも触れたエリア誤記問題と通信障害の質問が多く聞かれた。エリア誤記問題では、4G LTEの実人口カバー率を改めて提示した。800MHz帯が5月末時点で97%に達する一方、2.1GHz帯は71%にとどまる。
2.1GHz帯は、都市部のトラフィックが集中するエリアで、トラフィックを分散する目的で整備が行われており、2014年3月末時点の見通しでも80%程度となっている。エリア誤記に関して「誇大表示の意図はなかった」(田中氏)としたものの、「誇大表示を行ってまで、iPhone 5を売らなければならない販売条件を課せられていたのか?」という厳しい質問も寄せられていた。なお、販売条件はアップルに限らず非公表となっている。
通信障害については、「垂直立ち上げに無理がなかったか?」や「重点的な追加の設備投資を行うのか?」という点では、モバイル事業が2012年3月期から2014年3月期まで、3期連続での設備投資額の増加を予定しており、LTE関連の設備投資に力を入れていることを強調。また、計画外投資として、一連の通信障害対策に約300億円の追加投資を決定している。
WiMAXや高齢者用スマホに関する質問も
ネットワークの話では、LTEが話題の中心となっているが、質疑応答で「WiMAXの3M戦略における位置付け、WiMAX2やTD-LTEはどうなっていくのか?」との質問が飛んだ。
取締役執行役員専務 石川 雄三氏が回答し「3M戦略において、セルラーからオフロードするポジションであることには違いないが、その一方でBWA(高速データ通信専用サービス)としても高い評価をいただいている」と語り、通信制限がないなどの独自性のあるサービス内容が支持されている点を挙げた。
WiMAX2は、TD-LTEの技術使用を一部取り込んだ上で「WiMAX2+」としてサービス提供を目指しており、総務省に新しい周波数帯域の利用申請を行っている。新帯域の割り当てが行われ次第、展開を行っていくとしている。
ドコモには「らくらくスマートフォン」シリーズが登場しているが、KDDIでは簡単ケータイのスマートフォン版は提供されていない。「高齢者用スマートフォンは考えていないのか?」との質問に対し、石川氏は「今週、URBANOというスマートフォンの販売を開始する。ハードキーを3つ搭載したような端末ではないが、声で操作できるUIや、公共の場で声が聞き取りづらい場面でも聞き取りやすくする『スマートソニックレシーバー』を搭載している」と語った。
29期の決算内容について「短期借入金と売掛金の増加から、バランスシートが悪化していないか?」との質問が出た。これについて代表取締役 執行役員副社長 両角 寛文氏は、「有利子負債状況は長期借り入れが減少した上で短期借り入れが増加している。全体の金額は改善しており、問題ないと思う。売掛金については、携帯端末の割賦販売により割賦債権が増加している」と説明した。
中長期戦略について、「ガスメーターなどのエネルギー管理を、通信モジュールを活用して行う新たなビジネス領域をどのように考えているのか?」との具体的な例を出した質問も飛び出した。これについて田中氏は、「そのようなM2Mビジネスは、世界の通信事業者の共通認識として伸びていく分野だと考えている。車載センサーなどに活用する例もあり、スマートパイプ事業者を目指したい」とした。
なお、29期定時株主総会の第1号議案「剰余金の処分の件」、第2号議案「定款一部変更の件」、第3号議案「取締役12名選任の件」は全て賛成多数で議決された。