東京工業大学と秋田大学は6月17日、セメント鉱物の一種であるゲーレナイトCa2Al2SiO7が、高温用途の圧電センサ材料として有望であることを突き止めたと発表した。
同成果は、東京工業大学 大学院理工学研究科 武田博明准教授、鶴見敬章教授、秋田大学 大学院工学資源学研究科 小玉展宏教授らによるもの。詳細は、米国物理学誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
現在、耐熱性を有する超音波センサ、圧電振動子マイクロバランス、圧力センサの実用化が、地熱・火力発電所の構造部材の常時監視、燃焼炉ダストのその場検出モニタ、エンジンの燃焼圧モニタリングによる精密燃焼制御などの用途向けに求められている。しかし、これらすべてのセンサを実現するには、以下の条件が必須となっていた。
- 高温環境下で高い化学安定性
- 高温環境下で安定な圧電特性、
- 高温環境下で高い電気抵抗率
- 容易に大型結晶が育成できる圧電結晶
近年、高温用の圧電結晶が各所で開発されるようになってきたが、そうした研究の中で、これら4つの条件のうち、3つを満たす結晶は2つ。酸化物結晶である希土類カルシウムオキソボレートとランガサイト型結晶がそれで、希土類カルシウムオキソボレートは焦電性を示し、温度変化でシグナルを発生するという圧電センサとして致命的な欠点を有している。一方、ランガサイト型結晶は抵抗率が低いという欠点を持つが、抵抗率は、結晶育成時のドーピングや雰囲気制御で改善が可能であると考えられているため、ランガサイト型結晶が最有力候補と考えられてきた。しかし、これまで報告されている最高値でも400℃で10億Ωcm(109Ωcm)と絶縁性が失われ、欠点を克服できておらず、4つの条件すべてを満たす圧電結晶は存在しなかった。
研究グループは、これまでランガサイト型結晶の抵抗率と結晶欠陥の関係調査を進めてきたほか、他の酸化物結晶についても調査を進めてきており、それらの電気伝導は結晶中の酸素欠陥に由来する正孔や電子が導電種となる電子伝導や酸素そのものが導電種となる酸化物イオン伝導であり、酸素欠陥を発生させず、かつ酸素を容易に遊離させないようにすれば高抵抗な圧電結晶が得られるのではないかと考え、今回、酸素との共有結合が強いSi、Alで結晶構造の骨格を形成し、酸素との結合解離エネルギーが高い(酸素を遊離させにくい)元素からなる結晶の探索を行った結果、セメント鉱物であるゲーレナイト結晶を見いだしたという。
今回の研究では、このゲーレナイトに関して、以下の3つの発見があったという。
- チョクラルスキー法でバルク単結晶化が可能(図1)
- 焦電性がなく、融点1600℃まで圧電性を示す
- ランガサイト型結晶より高い電気抵抗率を示す(図2)
また、これらの発見に加え、燃焼環境を模擬的に再現した装置を作製して実験を行ったところ、700℃の高温下でも加えた圧力波形に応じてシグナル(電荷)が発生することなどを確認したことから、ゲーレナイトが高温用圧電センサ材料として有望な材料であるという結論を得たという。
研究グループでは、ゲーレナイトは、今回の成果である燃焼圧センサだけではなく、高温用超音波センサや圧電振動子マイクロバランスにも応用可能だと説明しており、高温超音波センサ素子ができれば、地熱・火力発電所の設備の安全性の確保が可能になるほか、これらの設備の常時監視による電力の安定供給につなげることが可能になると説明する。また、圧電振動子マイクロバランスの方についても、環境負荷の低減に寄与する燃焼炉のダストモニタの実現につながるとするほか、燃焼圧センサの実現による燃焼制御はガソリン車・ディーゼル車、船舶などの内燃機関の燃焼率向上・排ガス低減への革新的な技術要素に発展する可能性があるとしており、今回の成果が、将来的な安全かつ安定したエネルギー供給や環境負荷低減につながることが期待されるとコメントしている。