国立循環器病研究センター(国循)は6月14日、迅速かつ高精度な脳血流・代謝PET検査システムを開発し、2013年5月より本格的な臨床応用を開始したことを発表した。

同システムは国立循環器病研究センター研究所の飯田秀博 画像診断医学部長と中川原譲二 脳卒中統合イメージングセンター部長らが開発したもので、その成果の詳細は6月10日にカナダ・バンクーバーで開催された「米国核医学会」にて発表された。

「PET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)」は、特殊な放射性同位元素を用いた検査で、体の働きや組織の性質を調べるための画像診断法で、特にがんの検査によく用いられており、脳では認知症の検査でも注目されるようになっている。

また、サイクロトロンを設置し、検査中に同時に運転するなどの作業が必要で、撮影に時間がかかるうえに、検査前の準備から検査後の画像処理まで多くの人手と手間を要することから、脳血管障害では、放射性の酸素を含むガスPETが、脳の血流や代謝のゴールドスタンダードとなる検査法となっているものの、臨床現場で広く用いられているわけではなく、限られた施設での研究目的の使用がほとんどで、普及に向けて、検査自体の簡便・迅速化が求められていた。

研究グループはこれまで、脳虚血性疾患の重症度を短時間で精度よく診断するPET法として、半減期が2分の放射性酸素(15O)で標識した3種のガス(酸素、二酸化炭素、一酸化炭素)をそれぞれ吸入しながら撮影を行うことで、局所脳血流量、局所脳酸素消費量、局所酸素摂取率、および局所血液量の計算画像を得ることが可能なシステムの開発を進めてきた。

システムの開発当初は、検査時間は2時間を要していたが、酸素と二酸化炭素を吸入する10分程度の撮影と一酸化炭素吸入の10分程度の撮影2回に集約する「DARG法」の開発、ならびに撮影装置(PET/CT)や周辺機器の改善・改良を重ねることで、現在は約30分にまで短縮することに成功したという。

今回の研究では、新たに酸素と二酸化炭素吸入の撮影のみで局所血液量以外の3種類の計算画像を作成するソフトウェアを開発。これにより、一酸化炭素吸入の撮影を省略して、約10分でPET検査を終えることが可能となった(超迅速法)ことを受け、臨床応用を開始したとする。

また、開発されたソフトウェアによる計算画像は従来のものと遜色なく、血管成分などの読影の支障となる障害陰影が出ないという新たな利点も得られることが確認されている。

なお、研究グループでは今後、脳卒中の診療で必要な時に速やかに検査ができるような体制を整備していくとともに、同システムの有用性を発信していく予定としている。

今回の研究で、画像解析ソフトウェアの開発に成功したことから、臨床応用が開始された

超迅速法採用システムで撮影した脳血流量、酸素消費量、酸素摂取率の画像。血管成分が増大している領域においては従来のPET検査では評価できないとされてきたが、同システムにより読影が可能になった。血流および酸素消費量の画像から組織残存と虚血の有無が示唆される