岡山大学は6月10日、ウシの受胎率が気温が高くなる夏季に低くなる理由として、初期胚輸送(受精卵を卵管から子宮へと向かわせる蠕動運動)に必須であるウシの卵管から分泌される「プロスタグランジン(PG)」に、高温環境が悪影響を及ぼすことを明らかにしたと発表した。

成果は、同大大学院 環境生命科学研究科 動物生殖生理学の奥田潔教授、同・小林芳彦大学院生、同・山本ゆき特任助教らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月23日付けで生殖科学誌「Reproduction」に掲載された。

卵管内で受精が起こった後、初期胚は卵管平滑筋の蠕動運動によって子宮へ向かって運ばれていく。この蠕動運動には、「PGE2」と「PGF2α」という2種類のPGが重要な役割を担っている。PGE2は平滑筋の弛緩、PGF2αは収縮作用を示すのだ。子宮において、高温環境がPG分泌を増加させることがこれまでに明らかとなっており、卵管においても夏場の酷暑がPG分泌に影響を及ぼすという仮説が立てられていた。

研究チームは今回、単離した卵管上皮細胞のPGE2分泌が高温によって増加することを試験管内で証明し、さらにPGE2合成酵素の発現、ならびにPGE2合成酵素を活性化する「熱ショックタンパク質90」の発現が高温環境によって増加することを試験管内および生体内の両面から遺伝子レベルで証明した。

その一方、PGF2αの分泌は高温の影響を受けなかったことから、夏場の酷暑によって2種類のPG分泌のバランスが崩れ、蠕動運動には弛緩と収縮の両方が交互にバランスよく起こることが必要であるため、初期胚の輸送に悪影響が及ぶことで不妊となる可能性を示しているという。

さらに、熱ショックタンパク質90は全身の細胞に発現するタンパク質で、細胞内に存在する100以上のタンパク質の活性に関与することがこれまでにわかっている。従って、卵管以外の器官でも夏季の酷暑が熱ショックタンパク質90を通じて何らかの影響を与え、ウシの健康に悪影響を及ぼしている可能性があるとした。

今回の成果により、夏季不妊の予防または治療の新たな標的として卵管PGの分泌異常が候補として考えられるようになり、夏季の受胎率改善、さらにはウシの生産性向上に繋がることが期待されるとしている。

酷暑がPGバランスを崩すことで、卵管の蠕動運動に悪影響を及ぼす