農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)は6月4日、シブヤ精機、愛媛県農林水産研究所との共同研究・開発により、イチゴの栽培ベッドが循環移動する装置(循環式移動栽培装置)に対応して、定位置で自動収穫を行う定置型イチゴ収穫ロボットを開発したと発表した。
成果は、NARO 生研センター 特別研究チームの小林研チーム長、同・林茂彦主任研究員らの研究開発チームによるもの。
日本のイチゴの産出額はおよそ1500億円で、単価も高値安定しており産地の基幹作物になっている。促成栽培では、とちおとめ、あまおう、紅ほっぺ、女蜂、章姫など、1年で限られた時期(12月~5月頃)にだけ果実のなる品種である「一季成り品種」を9月に定植して、収穫が12月から翌年の5月頃まで続く。この栽培期間中に必要な労働力は約2000時間/10aで、その内の収穫作業が23%を占めるという具合だ。
収穫作業の自動化を目指して、これまで移動型のイチゴ収穫ロボットをNAROでは開発し、対象果実の内の5~6割程度を夜間に収穫できることを実証したものの、ロボットのコストダウンが大きな課題として残っていた。一方、同時期に開発されたイチゴの循環式移動栽培システムは、慣行栽培の2倍程度の密植が可能で、定植から栽培管理、収穫を定位置で行える特長があった。
そこで、2011年度から既存イチゴ収穫ロボットの技術と循環式移動栽培装置を連動させ、機構の単純化によるコストダウンを図ると共に、収穫を定位置で行えるシステムの開発に着手した次第だ。また、昼間では周囲が明るすぎて赤色果実の判別精度が低下する問題があったが、2012年度には果実周辺の遮光と昼間動作プログラムを組み込んだ定置型イチゴ収穫ロボットの開発に成功し、これによって稼働時間が拡大したのである。
今回の定置型イチゴ収穫ロボットは、循環式移動栽培装置の横移送ユニット中央に配置された形だ。今回の開発に用いられた循環式移動栽培装置は長さ3.6mの栽培ベッドを16台搭載することが可能である(画像1・2)。そしてロボットは、マニピュレータ、マシンビジョン、「エンドエフェクタ」(マニピュレータ先端に取り付ける手指に相当する部分)およびトレイ収容部という構成だ(画像3)。
工夫された点は、まずマシンビジョンをエンドエフェクタから独立させることで、採果後すぐに果実探索ができタイムロスを削減した点だ。栽培ベッドの横移送中に赤色果実の有無を走査し、検出すると、栽培ベッドを一時停止させエンドエフェクタ搭載カメラで着色度判定と果実の重なり判定を行う。収穫条件を満たせば、果柄を切断して採果を実施。果実が未熟であったり重なりがあったりすると、栽培ベッドを移送させ撮影角度を変えて再度判定し、条件を満たせば採果するという仕組みである。
イチゴ果実の大きさや形状、着果状態は収穫時期により大きく変化することから、それに対応するため、マシンビジョンアプリケーションには慎重モードと積極モードの2種類が組み込まれている点も特徴の1つだ。慎重モードは果実の重なり判定を厳しくすることで、未熟果の誤収穫を低減することが可能。一方の積極モードは少しでも多くの果実を収穫したい時に用いるモードとなっている。
また、収穫ロボットが昼間に動作できるアプリケーションも備えている点も特徴的で、動作範囲を遮光するなどの対策でロボットの稼働時間の拡大を図れる仕組みだ。1~3月における性能試験において、収穫成功率はおよそ40~70%、時間当たりの処理面積は20~40m2だった。
なお今後は、収穫ロボットの連続収穫試験を行ってデータの蓄積を図る予定としている。また、動作の安定性や耐久性についての調査も行うとした。特に昼間動作の安定性向上を図り、2014年度の実用化に結び付ける計画としている。定置型収穫ロボットと循環式移動栽培装置の仕様は以下の通り。
定置型ロボット本体
- サイズ:全長1050mm×全幅780mm×全高2050mm
- 重量:170kg
- マシンビジョン:カラーCCDカメラ×2、LEDバー照明(以上、固定)、カラーCCDカメラ×1、LEDリング照明(以上、エンドエフェクタ)
- マニピュレータ:円筒座標型、自由度3、可動範囲/回転180°・昇降400mm・前後300mm、フィンガー傾斜/3段階
- エンドエフェクタ:切断刃付き開閉フィンガー、把持確認用光電センサ
- トレイ収納部:収容台/左右両側、対応ケース/全長535mm×全幅255mm×全高80mm
移動栽培装置
- サイズ:全長4350mm×全幅9400mm
- 栽培ベッド数:16台
- 縦移送ユニット:ラチェット式送り桿、レバークランク駆動
- 横移送ユニット:チェーンコンベア、可変速機能