京都大学(京大)は6月7日、精子幹細胞の自己複製分裂に活性酸素が関与していることを発見したと発表した。
同成果は、同大の篠原隆司 医学研究科教授、森本裕子 同研究員、京都府立医科大学の矢部千尋 教授、理化学研究所バイオリソースセンターの小倉淳郎 室長、近畿大学の森本剛 教授らによるもの。詳細は、6月6日(米国時間)発行の科学誌「Cell Stem Cell」に掲載された。
活性酸素はO2-、H2O2などの原子状態が不安定であるために化学反応性が高い酸素分子の総称で、体内の酸素の一部がエネルギーを生み出す過程で変化することが知られている。こうしてできあがった活性酸素は細胞内の情報を伝達するメッセンジャーとしての役割を持つとともに、その制御の異常は細胞膜に損傷を与え、細胞内の酵素を不活性化し、DNAの断片化を誘導することから、アルツハイマー病などの変成疾患や、老化やがんの誘因として重要な役割を担っていると考えられるようになっている。
また、活性酸素による酸化ストレスは、生殖細胞においては発生過程の卵子の染色体異常や受精後の細胞死に関与することが知られており、特に雄の生殖細胞では成熟した精子を含め、さまざまなステージの精子形成細胞にダメージを与え、男性不妊症を引き起こすことがこれまでの動物実験から明らかになっている。精子形成の源には幹細胞があり、この精子幹細胞は雄の一生にわたり分裂を続けていく特別な能力を持っているが、これまでの研究から、活性酸素は精子幹細胞に対して毒性をもち、細胞死を引き起こすと考えられていた。
今回の研究から、活性酸素の低下は試験管内で培養された精子幹細胞の増殖を抑制するのみならず、適度な量の過酸化水素の添加は幹細胞の増殖を促進する作用をもち、過酸化酸素で長期間培養された幹細胞からは正常な産子を得ることが可能なことが確認された。
また、生体内における活性酸素の低下が精原細胞の増殖低下を起こすことが、活性酸素の産生に寄与するNADPH oxidase1(NOX1)分子を欠損させたマウスによる実験から確認されたという。
これらの結果は、活性酸素の低下が精子を作る素となる幹細胞の増殖を低下させる作用があるということを示すものであり、不妊症の男性の活性酸素を低下させると幹細胞の能力が低下してしまうため、必ずしも精子形成全体には良い影響を与えるとは限らないことを示唆するものとなったと研究グループは説明しており、不妊患者への治療のあり方を幹細胞のレベルから新たに見直す必要があることが示唆されたとコメントしている。