Wind Riverは6月6日、都内で会見を開き、組込機器に広がるインターネットへの接続とそれに伴う市場の変化にどう対応を進めているのかについて説明を行った。

同社は2009年、Intelに買収されたが、それ以降も独立したソフトウェアベンダとして活動を続けており、RTOS「VxWorks」や組み込みLinux「Wind River Linux」などの提供をx86プロセッサのほか、PowerPCやARMコアなどに提供してきた。

Wind River,Senior Vice President,MarketingのJim Douglas氏

同社Senior Vice President,MarketingのJim Douglas氏は、「今まで、Wind RiverといえばOS、特にVxWorksというイメージが強かったが、これから先、エレクトロニクス分野におけるプレゼンスを強化していきたいと思っており、それに合わせた戦略の変更を進めている」と、同社の事業形態が変革期にあることを強調する。

同社の親会社であるIntelもよく使っている数字だが、2015年には世界のインターネット人口は50億人に達し、インターネットに接続する機器は150億台という予測がある。また、これに伴い、トラフィックも増加の一途をたどり、2010年から2015年の間に、世界のトラフィック量は29倍増加することが見込まれているという。

そうしたトラフィック量の増大の要因の1つが「IoT(Internet of Things)」であり、IoTの普及により、「ビッグデータ」「ネットワークの音声通信からデータ通信への最適化」「セキュリティの確保」という3つの波が到来するという。しかし、多くの組込機器は従来、スタンドアロンで利用されていたり、仮にネットワークに接続されていたとしても、独自プロトコルによる閉鎖されたネットワークであったりと、インターネット/クラウドへの接続が考えられておらず、そうした機器を提供してきた同社のカスタマにもそれらの問題が課題としてのしかかるようになってきたという。

また、クラウドの活用が組込機器で本格化する時代になったとしても、ネットワークに接続されることを想定していない機器も混在する環境が往々にして発生するのが組込機器の世界であり、そうした混在した機器のすべてをどうやってゲートウェイに接続させ、クラウド側でデータを処理し、それを有効なデータフォーマットに落とし込み、クライアント側に戻すのか、という組込機器に特有の問題も生じることとなる。

「これまで組込機器はITとつながっていなかった。しかし、これからの時代、ネットワークへの接続が求められるようになったことから、組み込みエンジニアも、客先のエンジニアとだけ話をするのではなく、CIOとも話をする必要がでてくるなど、変化が生じてきた」と同氏は語るほか、「こうした動きは我々のカスタマにとって好機にもなる」とのことで、Wind Riverとしても自社のビジョンを拡大し、より幅広い分野に向けてインテリジェンスを提供していくことを目指すことにしたという。

インターネットへの対応が、従来の組込の世界(Brown Field)と新しい組み込みの世界(Green Field)が融合させ、さらにIT分野との連携を不可欠とするようになってきた

具体的には、「元来強みを持つOS分野以外にも、IoTを活用可能な分野への投資を加速させている。それは主に2分野あり、1つ目としてはインテリジェントネットワークがある。データ量の増大に対して、利益を生み出せる拡張性を追求していくことで、ネットワーク非対応の既存機器、ネットワーク対応済みの新規機器という混在環境であっても、容易にインターネットに接続できるソリューションの提供を考えている。もう1つの分野は自動車分野で、車内における体験をもっとも向上できるソリューションの提供を考えており、自動車がネットワークノードの1つとなれるソリューションの構築を考えている」としており、こうした分野に向けた組込機器の接続性の担保とマネジメント、そしてセキュリティの確保を実現するために2つのソリューションの提供を開始したとする。

IoTの普及に対してWind Riverがフォーカスする分野

1つ目は「Intelligent Network Platform(INP)」と呼ぶ、コアネットワークをターゲットとしたもので、「Application Acceleration Engine」、「Content Inspection Engine」、「Flow Analysis Engine」の3つのエンジンを有している。Application Acceleration Engineを用いることで、カスタマは効率よくパケットをネットワーク上に流すことが可能になるほか、Content Inspection Engineにより、害意を持つパケットの流入を防ぐことが可能となる。また、Flow Analysis Engineにより、パケットの流れを分析し、その性質に基づき、どこに送るべきかを決定することで、ネットワークの品質を向上させることが可能となるとのことで、「カスタマはINPを活用することで、標準型のLinuxに比べてパケットのスループットが11倍以上高速化するほか、実行アプリの処理能力が5倍になる。また、単独でDeep Packet Inspection(DPI)を機能させるよりも、より効率的なパケット処理が可能になる」という。

3つのエンジンで構成される「Intelligent Network Platform(INP)」。その内、2つのエンジン(Content Inspection Engine、Flow Analysis Engine)はDeep Packet Inspection(DPI)の分野をより高速に処理するものとなっている

もう一方はクライアント機器向けの「Intelligent Device Platform(IDP)」で、これを活用することで、接続性の確保、機器の運用管理、セキュリティの確保を一気に実現することが可能になるとする。主なターゲット分野としては、「エネルギー」「ヘルスケア」「オートメーション(自動化)」の3つとしており、それらの分野の組込機器をインテリジェント化することが可能になるとのことで、2013年7月には前世代から堅牢性の向上やセキュリティレベルの向上、シリコンサポートの改善などが図られたバージョン2の提供が行われる予定だという。

「Intelligent Device Platform(IDP)」の概要

なお、同社では、「現在、デバイスを安全に活用するための接続性の確保、セキュリティの確保、クラウドの下にあるデバイスからのデータ収集などに対する投資を強化しており、インテリジェンスをキャリアにも組込機器にも提供できる体制を構築しているほか、組込型のクラウドやデータアナリティクスにも投資を行っており、これらのソリューションがそろえば、エンドツーエンドのIoTを提供できるようになる」としており、近いうちにOSベンダからIoTから生み出されるであろう新たな価値をフル活用できるソリューションを提供できる企業へと変貌を遂げるであろうとしている。

既存の組込分野と新規の組込分野、そしてIT分野にまでソリューションを拡大することで、全方位でIoTの普及に対応を進めていくというのが、将来のWind Riverの姿となる