岡山大学は6月3日、広島大学、米ハーバード大学との共同研究により、日本における1975年から2005年の自殺リスクの推移を評価したところ、男性では専門職や管理職などで自殺リスクが著しく増加するなど、リスクの社会的格差が広がる一方で、女性では全体的にリスクが低下傾向にあることが示され、また男性においては、地理的格差が1995年以降著しく拡大(リスクが最も高い秋田県と最も低い奈良県で2.45倍の差)していることが示唆されたと発表した。

成果は、岡山大 大学院 医歯薬学総合研究科 疫学・衛生学分野の鈴木越治助教、広島大の鹿嶋小緒里 助教、ハーバード大のIchiro Kawachi氏、同・S.V.Subramanianらの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月6日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。また6月に、アメリカ・ボストンで開催される第46回疫学研究学会年次総会(46th Annual Meeting of the Society for Epidemiologic Research)でも発表される予定だ。

これまでの国内外の研究で、景気の悪化と自殺者数の増加に関連があることが示唆されているが、日本における自殺格差が、社会的または地理的にどのような変遷を辿っているのかに関しては今まで明らかになっていなかった。そこで研究チームは今回、日本における自殺リスクの社会的・地理的格差の推移について検証を実施したのである。

今回の研究では、人口動態統計や国勢調査を基に、25歳から64歳の全人口を対象として、1975年から2005年までの30年間にわたり、自殺リスク格差の推移が5年ごとに分析された。これまでの研究では健康格差を評価する際に、地理的格差を無視して社会的格差のみを評価したり、逆に社会的格差を無視して地理的格差のみを評価したりすることが一般的だったが、今回の研究では、自殺リスク格差の全体像をとらえることを目指し、自殺リスクの社会的格差と地理的格差の両者を同時に評価するため、「マルチレベル分析」という統計学的手法が採用されている。

そして年齢や居住地が統計学的に調整されて分析された結果、男性において自殺リスクの社会的格差は大きく拡大しており、格差のパターンも顕著に変化していることが示された。特に注目すべき点として、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、保安職業従事者の自殺リスクは1975年時点では最も低かったものの、この30年間で著しく増加していることが示唆されたことが挙げられている(画像1)。

また、地理的格差の推移を評価するために、都道府県ごとの年齢層や職業構成の偏りを統計学的に調整した上で分析した結果、1975年時点では格差は目立たなかったものの、特に1995年以降、男性の自殺リスクが東北地方を中心として顕著に増加していることが示された形だ(画像2)。2005年には、男性で自殺リスクが最も高い秋田県と低い奈良県の間で約2.45倍の差があり、女性で最も高い岩手県と低い神奈川県とでは、約1.51倍の差があることが示された。

画像1。男性における自殺リスクの社会的格差の推移

画像2。男性における自殺リスクの地理的格差の推移

近年、わが国における健康格差の拡大が懸念されており、自殺の社会的格差や地理的格差は、この点で重要な公衆衛生上の課題だ。自殺の原因は一般的に、個人の特性(心理的(メンタル)疾患、遺伝的な要因、身体的疾患、精神的孤独など)と個人を超えた社会経済的特性(地域の平均収入、収入格差、ストレスとなる社会的なイベント、マスコミ報道など)に分類されており、両者が相互に影響を及ぼし合って自殺に追い込まれるものと考えられている。

今回の成果をさらに発展させて、特定の社会経済的特性に対する自殺ハイリスク集団を同定することは、効果的な自殺予防対策を検討する上で重要であると考えられるとしている。